『少年とハリス』
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【聞きたい。】稲葉稔さん 『少年とハリス』
[文] 産経新聞社

『少年とハリス』を刊行した稲葉稔さん
■言葉の壁を超えて通じ合う
安政3(1856)年7月21日、伊豆国(現在の静岡県)の下田湾沖に黒船が姿を現した。乗船していたのは米国の初代日本総領事、タウンゼント・ハリス。「アメリカと日本の友好を深め、お互いの信頼のもと国を大きく開きたい」と通商条約の締結を求めるハリスは下田の玉泉(ぎょくせん)寺に滞在することに。史実がベースの本作は、住み込みの使用人で足軽の16歳少年、村山滝蔵が言葉の壁を超えてハリスと交流を深めていく物語だ。
「自宅の近所にある横浜市歴史博物館にふらっと立ち寄ったときに、ハリスを支えた家僕や通詞(通訳)といった日本人たちがいたことを知って。その前に来たペリーは軍艦で圧力をかける砲艦外交だったが、ハリスはいわば単独で乗り込んできた。その心の支えになるような少年とハリスの絆を書いてみたかった」
当時の将軍、徳川家定が病弱だったこともあり、攘夷(じょうい)派の反発を恐れる幕府はハリスを追い返そうとひたすら返事を遅らせる。ハリスは胃の持病を抱えながらも粘り強く交渉を重ね、ついに将軍への謁見にまでこぎつけて条約締結への道を開く。ハリスに付き従う滝蔵も少しずつ英語を覚え始め、やがて英語の通詞になる夢を抱くようになる。
「ハリスが日本と結んだ日米修好通商条約は不平等条約だとよく言われますが、日本の近代化を推し進めるためには大事な条約でもあった。ペリーが鎖国の固い扉を少しこじ開けたとすれば、ハリスはその扉を大きく開いてあげた、といえるのでは」
執筆のために下田の街中を歩き回り、ハリスが滞在した玉泉寺も訪ねた。取材を通じて、「ペリーのことは大きく取り上げられているが、ハリスのことはあまり紹介されていない」と感じたという。「功績を考えたら、下田の人はもう少しハリスに感謝すべきじゃないか」と笑いを交えながらも力を込める。
「困っている人に手を差し伸べたり力になってあげたりというのは、外国人も日本人も関係ない。ハリスと滝蔵のように年が離れていても、心の通じ合いはあるんじゃないか」。現代の国際情勢にも通じる金言だ。(幻冬舎・1980円)
村嶋和樹
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【プロフィル】稲葉稔
いなば・みのる 作家。昭和30年、熊本県生まれ。平成6年に作家デビュー。令和2年に「隠密船頭」「浪人奉行」の両シリーズで日本歴史時代作家協会賞文庫シリーズ賞を受賞。


























