遺体の写真を見て朝まで眠れなくなる日も…加害者ではなく「被害者」の側に立ち支える弁護士の“葛藤”

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犯罪被害者代理人

『犯罪被害者代理人』

著者
上谷 さくら [著]
出版社
集英社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784087213836
発売日
2025/10/17
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

共に涙し、遺族の人生を背負う。理不尽な現実に二人三脚で寄り添う弁護士

[レビュアー] 水谷竹秀(ノンフィクションライター)


※画像はイメージ

「弁護士」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、法廷で被告人の情状酌量を求め、減刑や無罪を勝ち取るため、検察官を相手に丁々発止する姿だろう。日本では現在、4万6900人の弁護士が日本弁護士連合会に登録されているが、大半は加害者の側に立ち、弁護活動を行っている。これに対し、犯罪被害者や遺族の声を法廷や社会に届ける弁護士はとても少ない。本書の著者は、その1人である。

 平穏な日常がある日突然、破壊される。被害者や遺族になった人々は、現実を受け入れられないまま、それでも否応なく続く人生に向き合わされる。

 世間の注目度が高い事件では、報道陣から自宅や葬儀場に押しかけられる「メディアスクラム」を受ける。ネットでは被害者への誹謗中傷も容赦ない。捜査機関に相談しても、不十分な対応でさらに傷つく可能性がある。裁判では厳罰を望むも、AIでも書けるような紋切り型の判決文や軽い量刑に落胆する。被害を受けても尚、理不尽な現実に晒される被害者に寄り添い、支援を続ける。それが「犯罪被害者代理人」という仕事だ。共に涙し、時には笑い、彼らの人生を背負う。遺体の写真を見て被害者の生前を知り、朝まで眠れなくなる日もある。

 2019年4月に起きた池袋暴走事故で妻子を失った遺族、松永拓也さん(39)は、メディアを通じてその名を知る読者も多いだろう。松永さんの代理人を務めた著者は、裁判で読み上げる意見陳述書を作成するため、松永さんの妻の故郷、沖縄へ飛び、遺族の話に耳を傾けた。被告人質問に向けては、法廷でのやり取りを想定した練習を重ね、思いが正しく伝わるよう、遺族と二人三脚で取り組んだ過程が描かれる。

 被害者や遺族の感情は繊細で、時に揺れ動く。だからこそ代理人には難しい判断が求められる。著者が数多く支援してきた性犯罪被害では、客観的証拠が乏しく、加害者の自白や被害者の証言に頼らざるを得ないケースが多い。だが、証言だけでは起訴が難しい場合には、勇気を振り絞った被害者の心は折れる。それでも背中を押すべきか。距離感の取り方に悩む著者の葛藤も素直に語られる。

 そんな現場の経験と知識が詰まった本書は、被害に遭った時にどこに助けを求め、どう対処すべきか、というマニュアルの側面も併せ持っている。被害者の視点に立つと、日本の司法制度や支援の在り方にはまだ、課題が積み残されていると気づく。

新潮社 週刊新潮
2026年2月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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