『七浪京大卒無職・院等寺庵乃雲の奔走』
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眩暈を覚える展開の奇天烈さ!高学歴ニートの気高く(?)孤独な闘い
[レビュアー] 杉江松恋(書評家)
佐川恭一は身も蓋もない現実に囚われた人の姿を哄笑に満ちた筆致で描き、時にその哀しみを浮かび上がらせることもある作家だ。
新作長篇『七浪京大卒無職・院等寺庵乃雲の奔走』の主人公は題名通りの経歴で、三十八歳になった今も実家の二階で暮らしている。就労経験はほぼないが、無為に過ごしている自覚はない。片桐翔子ノンフィクション大賞を獲得し文筆家として身を立てるという目標があるからだ。
今年も同賞の〆切は過ぎてしまい、翌年こそはとネタ探しを開始した院等寺は母校を訪れ、「どこにでもいる一般的な京大生」と「美人で巨乳のクッソエロそうな黒ギャル」のカップルを発見し、即座に尾行を開始する。
これが第一話「京大生黒ギャル交際事件」の発端である。以降院等寺の、人類の偏差値上位二パーセントだけが入会を許されるHENSAの試験に挑んだり、婚活で出会った女性から次々に拒絶されたり、といった行動が描かれていく。
自身の殻を破ろうと奮闘するのだが、毎回円弧を描いて元の場所に戻っているだけのようでもある。「あんた、いつまで寝てんねん!」と布団を剥がしにくる母親の声がするのは、院等寺が実家二階という安住の地から出ることのできていない状態の象徴だ。各話の末尾には「片桐翔子ノンフィクション大賞の〆切まであと○○日」との無情な一文が記される。
主人公を囲む檻は、見えないが確実に存在する。そこから逃れることができるのか、という物語だ。そうした世界構造を踏まえ、最後には意外な敵が院等寺の前に立ちはだかる。展開の奇天烈さに眩暈を覚える読者もいると思うが、虚構の世界に生きる院等寺は、虚構の力で自らの未来を切り拓くしかないのである。現実に生きる我々が、現実に足のついた方法でそれをするしかないように。気づけば院等寺を応援したくなっているはずだ。扉を開け、外へ出よ。


























