【書評】謎解きや意外な展開の連続と “異能力バトル”が合体した、 疾走感に溢れる一作!――阿津川辰海『デッドマンズ・チェア』レビュー【評者:若林踏】
レビュー
『デッドマンズ・チェア』
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【書評】謎解きや意外な展開の連続と “異能力バトル”が合体した、 疾走感に溢れる一作!――阿津川辰海『デッドマンズ・チェア』レビュー【評者:若林踏】
[レビュアー] カドブン
阿津川辰海さんの新刊『デッドマンズ・チェア』の発売にあわせ、若林 踏さんによるレビューをお届けします。
■阿津川辰海『デッドマンズ・チェア』レビュー

【書評】謎解きや意外な展開の連続と “異能力バトル”が合体した、 疾走感に…
評者:若林 踏
もしジェフリー・ディーヴァーの〈リンカーン・ライム〉シリーズが、荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』と出会ったならば。阿津川辰海の〈コトダマ犯罪調査課〉シリーズを形容すると、このような言葉になるだろうか。
『デッドマンズ・チェア』は『バーニング・ダンサー』に続く〈コトダマ犯罪調査課〉シリーズの第2作だ。同シリーズは某国への隕石落下によって、世界各国に“コトダマ遣い”と呼ばれる能力者が現れるようになったという物語設定になっている。能力を使用した凶悪犯罪に対応すべく、日本の警視庁は「コトダマ犯罪調査課」という“コトダマ遣い”をメンバーに集めたチームを結成する、という流れが第1作の『バーニング・ダンサー』では描かれていた。
特異な技能を有する犯罪者と捜査チームが知恵比べを繰り広げる警察スリラー、という構図は冒頭に書いたディーヴァーの〈リンカーン・ライム〉シリーズを意識したものだ。リンカーン・ライムは四肢麻痺の科学捜査官で、手足となって動く刑事アメリア・サックスらとともに推理で知能犯を追い詰めようとする。その過程で手がかりを基にした謎解きや意外な展開の連続を盛り込む手付きが、〈コトダマ犯罪調査課〉シリーズにも受け継がれているのだ。
ディーヴァー作品との明確な違いは、漫画やアニメ作品でお馴染みの所謂“異能力バトル”ものの要素を取り入れ、より思考ゲームの味わいを濃くした点だろう。“コトダマ遣い”の出現には幾つかの原則があり、「S文書」というルールブックにまとまっている。例えば世界に存在する“コトダマ”の数は100個と言われているが、1つの“コトダマ”を持つ人間は地球上に必ず1人しかいない。「S文書」にはルールの他に“燃やす”“入れ替える”といった“コトダマ”の名称と能力に関する簡単な説明が書かれているが、その詳細と能力の発動条件は実際に対峙してみないと分からない。つまり「コトダマ犯罪調査課」の面々は能力の正体を見極めながら犯罪者と戦わなければいけない場合もあるのだ。このように定められたルールに基づいた能力の読み合いや頭脳戦は『ジョジョの奇妙な冒険』などの能力バトル漫画が持つ醍醐味に近く、それをディーヴァー作品のような海外スリラー小説の興趣と合体させたところに〈コトダマ犯罪調査課〉シリーズの新奇性がある。
そのシリーズ第2作である『デッドマンズ・チェア』は「コトダマ犯罪調査課」メンバーの1人で“伝える”の能力の持ち主、小鳥遊沙雪が山下公園のベンチで目を覚ますところから始まる。目の前には中国人らしき少年少女が立っており、少女の方が沙雪に「私たち、追われているんです」と助けを求める。だが、そのうち少年の方はサバイバルナイフを取り出し、沙雪に突き付けてきた。どうやら少年少女は沙雪を人質にとって逃亡する気らしい。
いっぽう、“入れ替える”の能力を持つ永嶺スバルと、“硬くなる”の能力を持つ桐山アキラの両捜査官は、横浜市内で起こった鳥をターゲットとする連続狙撃事件の捜査に参加していた。状況から見て狙撃犯はどうやら“コトダマ遣い”のようだが、その捜査の最中、首の骨を折られた男の死体が発見される事件に遭遇する。
今回は複数の事件を並行して描く所謂モジュラー形式を巧みに使い、「コトダマ犯罪調査課」のメンバーそれぞれが極限の状況で決死の捜査に興じる姿をスリリングに描く。前作『バーニング・ダンサー』との違いは登場人物それぞれが危機的な状態を打破するために絶えず動き回る点で、そのぶん“コトダマ”の能力を駆使した戦いも一挙に増した形で描かれている。思考ゲームのサイクルが前作以上に速く、緩むことなく疾走感に溢れるまま物語が突き進んでいくのだ。その中に論理的な手がかりの検証による真相当てや読者に見事な背負い投げを食らわせるような仕掛けも盛り込み、更には手強いマフィアも交えて横浜の街中を舞台に活劇場面もたっぷりと描くなど、娯楽小説としてやれることはやり尽くす、という著者の気概に満ちた一作となっている。
シリーズは本書から読んでも構わないが、連続テレビドラマシリーズのような構成で読者の興味を引き付けるのも同作の肝だろう。連作を貫く大きな物語が今後どのような波乱の展開を迎えるのか、一刻も早く続刊を所望する次第だ。



























