『アリス』『ガリヴァー』『星の王子さま』『モモ』 物語と書評がセットになった、吉田篤弘の新しい試み

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エデンの裏庭

『エデンの裏庭』

著者
吉田 篤弘 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784000223201
発売日
2026/01/27
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[本の森 SF・ファンタジー]吉田篤弘『エデンの裏庭』

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

 クラフト・エヴィング商會名義で、パートナーの吉田浩美さんとともに様々な書籍の装幀を手掛けている吉田篤弘さん。作家としての顔もありファンも多い。静かで清潔な彼の文章を目で追っていると、温かな飲み物の湯気に顔を浸しているような心安らぐ気持ちになる。

『エデンの裏庭』(岩波書店)は二部構成のユニークな一冊だ。「物語の舞台袖」と題された前半は『不思議の国のアリス』、『ガリヴァー旅行記』、『星の王子さま』、そして『モモ』から想像を広げた4つの短い物語と書評がそれぞれセットになっている。

 面白いのは出発点が「余白」だということ。テキスト(印刷された活字)の周りには必ず余白があるが、そこに目を凝らすと本編では語られなかったことが浮上してくるかもしれない、と子供時代の篤弘さんは妄想していたのだそうだ。大人になった自分がその妄想を再び覗き込んでみたらどうなるだろう? そう考えて4つの児童文学を再読し、それぞれの余白から浮かんできたイメージを物語に仕立ててみた。すると活字群の周囲にまたもや白いスペースが(当然ながら)生まれたので〈さらなる余白に書き込まれるべき注釈や解説〉を「舞台袖からの報告」として記したのだという。

 たとえば『星の王子さま』の章はこんなふうだ。「物語」の語り手は知らない場所に迷い込んでしまった「私」。「私」は道を聞こうと古書店に入る。店主は何か一冊本を買ってくれと言い『星の王子さま』を読んだことはあるかと「私」に聞く。ありませんと答えた「私」に、店主はゆっくり質問を投げかける。断片的な情報と有名なフレーズによって、どこか先入観を持たれている感もある『星の王子さま』。店主の問いと「私」の答えがこの名作を柔らかく解体し、続く「舞台袖からの報告」はそれを引き継ぐかたちで作品に対する考察をさらに深めている。

 後半の中編小説「エデンの裏庭」も魅力たっぷりだ。ひとりで和洋菓子屋を営んでいるエリカの店に、ある日身なりの良い青年が訪れる。板チョコが欲しいのだが手持ちがないと彼は言い、引き換えにこれを、とエリカの掌に何かをのせる。黒い、小さな粒。種? と思った彼女の心を見透かしたように青年は言う。「これはですね――『善悪の種』なんです」。

 彼のまなざしにはどこか覚えがある、と感じたエリカは自らの記憶を探る。そこからはじまる小さな冒険に登場するさまざまな人やもの……図書館、七色唐辛子、両親の言葉、地図、不思議な少女……が、優しく温かでほんのすこしさびしい色合いの世界を構築してゆく。前半の「物語の舞台袖」と響き合う声が聞こえてくる。装幀はもちろんクラフト・エヴィング商會。一般的な単行本より小さめのサイズに仕立てられている理由を、あとがきでぜひ確かめてほしい。

新潮社 小説新潮
2026年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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