『凡人が天才に勝つ最強の営業』
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【毎日書評】営業センスがないと諦めなかった…キーエンスの落ちこぼれが学んだ最強の営業術
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『凡人が天才に勝つ最強の営業 営業に「センス」はいらない』(あさひ 著、SBクリエイティブ)の著者は大学院卒業後、キーエンスに新卒入社した経歴の持ち主。というだけで、いかにも成功者のように聞こえてしまうかもしれません。
なぜなら、熾烈な環境で知られる同社は、ずば抜けた営業力を備えた人材が集まることで知られているから。そこで勝ち残った以上は、相応の実力の持ち主だと考えても不思議はないわけです。
ところが実際のところは、それほど簡単な話ではなかったようです。
恥を忍んで告白しますが、私はキーエンスで「最低評価」の烙印を押されたことがある人間です。
しかし、そんな泥水をすするような経験をした私だからこそ、
「どういう言葉選びをすればいいのか」
「どんな表現が顧客の心にあと1ミリ深く突き刺さるのか」
に向き合い続け、格闘し、試行錯誤してきました。これらに費やした時間だけは、誰よりも長かった自信があります。それこそが、生まれながらのトップセールスにはない、私だけの財産だと断言できます。(「はじめに」より)
そんな著者が、キーエンスで「トップセールス」と呼ばれる日は訪れなかったそうです。しかし“泥くさい試行錯誤”を重ねた結果、新商品の販売ランキングでトップ10入りを複数回果たすなど、周囲をしのぐ成果をつかむことができたのだといいます。
凡人どころか、落ちこぼれですらあった私だからこそ見つけ出すことができた、血のにじむような「思考法」と「応酬話法」。
本書には、そのすべてを惜しみなく記しました。(「はじめに」より)
きょうは第7章「合理的に感情をデザインするための営業心理学」のなかから、「信頼と安全を醸成する『関係性』の心理学」に焦点を当ててみたいと思います。
ザイオンス効果(単純接触効果)〜「接触回数」が好意に変わる
人間には、繰り返し接する対象に対して次第に好感や親近感を抱くようになるという心理特性があります。これをザイオンス効果と呼びます。営業においても接触頻度は信頼関係の基礎体力となります。(219ページより)
とはいえもちろん、嫌がっている相手のところへ何度も押しかけるのは言語道断。適切なタイミングを見計らいつつ、1回、2回、3回、4回と、顧客にとっても営業にとっても意味のある接触を意図的に積み重ねることが大切なのです。
とくに最近では、顧客に買ってもらうのはあくまでスタートラインである「サブスクリプションモデル」の製品も急増しています。“一発逆転で売り抜けて終わり”ではなく、継続的に良好な関係を築くこと、それが契約の継続に直結するわけです。
だからこそ、1回目の顔合わせから鼻息荒く提案をするのはNG。回数を重ねて顧客とのリレーションを構築していくことが、遠回りのようで、じつは近道だということです。会うたび、相手にとって有意義な情報を「小出し」に提供することがポイントだといいます。
実践トーク例
・悪い例:「その後、ご検討状況はいかがでしょうか?(催促のみ)」
・良い例:「先日、〇〇社長が気にされていた△△業界の動向について、面白いデータが出たので共有しますね。検討とは関係なくて構いませんので、参考になれば幸いです」(220ページより)
このように、役に立つ「ついで」を演出することで、“会うと得をする人”というポジションを確立するべきなのです。そうすれば次第に、「困ったときは〇〇さんに相談しよう」という関係性が構築されていきます。
また接触時には、相手の名前を頻繁に呼ぶ“ネームコーリング効果”も併用したいところ。「社長」ではなく「〇〇社長」、「部長」ではなく「〇〇さん」と名前を呼ばれると、相手は無意識に「自分は尊重されている」と感じ、承認欲求が満たされるのです。もちろんこれは営業だけでなく、社内の人間関係でも効果を発揮するはず。(219ページより)
ラポール形成と「ハロー効果」〜「こいつはデキる」と錯覚させる技術
ラポールとは、フランス語で「架け橋」を意味し、心が通じ合っている状態を指します。一般的には「相手の動作を真似る(ミラーリング)」などが推奨されますが、不自然な真似は不信感を生むだけです。キーエンス流のラポール形成はもっと実利的かつ攻撃的です。
それは「ハロー効果」の徹底活用です。(221ページより)
ハロー効果とは、ある対象の“目立ちやすい特徴”に引きずられ、他の評価まで歪められてしまう心理現象。たとえば「東大卒」や「清潔感のある服装」だけで、人格まで優れているように見えたり、仕事ができそうに見えたりすることがこれに相当します。
商談においては、その冒頭でマニアックな業界ニュースや専門用語を自信満々に話すことが効果をもたらします。
実践トーク例
営業:「御社のWebサイトの採用情報を拝見したのですが、求める人物像に『カイゼン魂』とありましたね。現場の改善活動もかなり活発に行われているとお見受けしましたが、今の歩留まり目標はどの程度に設定されているのですか?」(220ページより)
たったこれだけで、顧客の脳内には「採用ページまで見ているのか(熱意)」「歩留まりの話が通じる相手だ(専門性)」といったプラスの錯覚が発生するわけです。つまり「一点」が際立って優れていると、顧客は勝手に「この人は信頼できる」と全体評価を底上げしてくれるということ。
また、ラポール形成に欠かせないのが心理的安全性の確保です。顧客が本音を話さない最大の理由は「売り込まれる恐怖」。「『困っている』と口にすれば、高い商品を売りつけられるのではないか」というような警戒心を持っている可能性があるからこそ、「採用するかしないかは関係ありませんので、まずは現状をフラットに教えていただけませんか?」と、「売る気配を消す」ことが信頼獲得につながるのです。(221ページより)
本書は単なるノウハウ集ではなく、凡人が非凡な成果を出すための実践的な「武器」と「防具」を詰め込んだ、読者をより強くするための“営業学”です。よりよい成果を手にするために、活用してみてはいかがでしょうか。
作家、書評家、音楽評論家
印南敦史
1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: SBクリエイティブ


























