『鶏まみれ』
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〈書評〉『鶏まみれ』繁延(しげのぶ)あづさ 著
[レビュアー] 内澤旬子(文筆家・イラストレーター)
◆安価支える低賃金労働の現場
鶏肉を食べる時、どんな場所で殺して肉にしたのかを想(おも)う人はほとんどいない。鶏を自分で飼い捌(さば)いて食べること自体は、そこまで難しいことではない。あまり器用でない評者でも2時間くらいで精肉している。いのちの教育として実践する教育機関もある。
けれども一羽ずつ丁寧に育て捌くのと、スーパーで気軽に買える鶏肉にする場合では、気が遠くなるほどの違いがある。
本書の著者は狩猟を取材し、自宅で鶏を飼って食べるうちに、家族の事情で養鶏業に乗り出す。産卵率が落ちてくる雌鶏(めんどり)を廃棄処分にせず自分で捌いて肉として売るために、食鳥処理場へ働きに行く。食鳥処理衛生管理者資格取得のためには3年間の勤務実績が必要だったのだ。
中の描写は強烈だ。想像を超える速さで逆さ吊(づ)りの鶏が大量に流れてくる。機械の速さに必死に追いつき、ひたすら首を切り続けたり、内臓を引き抜き続ける仕事。汚れ方も尋常ではない。速さと量に圧倒されのみ込まれそうになりつつ、ここで何が起きているのか、違和感の正体と向き合い言葉を紡いでいく。単なる「取材」では決して得られない臨場感と、重い現実。
こんなに凄(すご)い、命を扱う仕事が一体なぜ最低賃金で、働き手に後期高齢者女性や障害者が多いのか。憤りに近い感情や仕事内容を近しい人に吐露しても、共感は得られない。「自分たちとは隔絶した他の誰かが引き受けるべき仕事」として捉え、ほとんどの人が残酷な線引きをしていることにすら気づいていない。
なぜ最低賃金なのかという問いは、以前に評者が牛や豚の食肉処理場を取材した時に散々聞かされた「この仕事は儲(もう)からない」という嘆きと重なる。付加価値がつかない業務で利益を得るためには、最低賃金の労働者が高速で大量の鶏を殺し続けねばならず、そのおかげで私たちは安い卵や肉を食べている。では「正当な」手間賃を乗せて高額にすれば解決するのか。全ての農産物に通じる問題でもある。
目を背けず、ひとりでも多くの人に向き合ってほしい。
(亜紀書房・2420円)
写真家。桑沢デザイン研究所卒。著書『うまれるものがたり』など。
◆もう1冊
『暴力のエスノグラフィー』ティモシー・パチラット著、小坂恵理訳、羅芝賢(ナジヒョン)解説(明石書店)


























