【書評連載「物語は。」】「光ってた」という事実は消えない——金子玲介『私たちはたしかに光ってたんだ』【評者:吉田大助】

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私たちはたしかに光ってたんだ

『私たちはたしかに光ってたんだ』

著者
金子 玲介 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163920900
発売日
2026/04/09
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【書評連載「物語は。」】「光ってた」という事実は消えない——金子玲介『私たちはたしかに光ってたんだ』【評者:吉田大助】

[レビュアー] カドブン

これから“来る”のはこんな作品。
物語を愛するすべての読者へ
ブレイク必至の要チェック作をご紹介する、
熱烈応援レビュー!

(本記事は「小説 野性時代 2026年6月号」に掲載された内容を転載したものです)

■書評連載「物語は。」第147回

■金子玲介『私たちはたしかに光ってたんだ』(文藝春秋)

【書評連載「物語は。」】「光ってた」という事実は消えない——金子玲介『私た...
【書評連載「物語は。」】「光ってた」という事実は消えない——金子玲介『私た…

評者:吉田大助

「光ってた」という事実は消えない

 青春時代に打ち込んでいたことと、今の自分が仕事なり趣味なりでやっていることとの間にある、断絶。メフィスト賞受賞のデビュー作『死んだ山田と教室』でいきなりブレイクした金子玲介の最新長編は、青春なんてとうの昔に通り過ぎた大人たちが大なり小なり感じている、その断絶を嚙み締める主人公の物語だ。嚙み心地はタイトルに表れている。「光ってたんだ」。なら、今は?
 本編一ページ目の冒頭に掲げられた数字は、「15」。一五歳の主人公・瑞葉が高校入学直後の夕方の教室で、前の席に座っていたクラスメイトの少女・朝顔からバンドの勧誘を受ける。自分はギターで、瑞葉がベース。バンドにとってベースは「心臓」なのだと、朝顔は瑞葉に説明する。「私が心臓に、なっていいの?」「いいよ」
 章替わりののち、新たに登場する数字は「26」だ。二六歳の瑞葉が監査法人で会計士として、ハードに働いている姿が綴られる。息抜きに触れたSNSで、「さなぎいぬ」が紅白初出場を決めたことを知り、Wikipediaの当該バンドのページに飛ぶ。そして、四人の名前が並んだ「メンバー」の項目の後にある、「旧メンバー」の項目に辿り着く。〈このページの、この私の名前を、私は何度見に行けば気が済むんだろ〉。瑞葉はいつ、何故バンドを辞めることにしたのか?
 以降、物語は「15」から少しずつ数字を増やしていく過去パートと、「26」の現在パートとが入り交じりながら進んでいく。命を懸ける思いでベースの練習に励み、ボーカルの葵とドラムの緋由、何より朝顔と一緒にバンドができる喜びを全身で味わう青春の日々。多忙に多忙を極め、〈もうやだ。もうこんな、誰から求められてるかもよくわからない仕事、しんどい〉という言葉を吞み込んで生きる現在。過去パートにおける青春バンド小説としての輝きが、瑞葉の人生における過去と現在の繫がりのなさ、明と暗を際立たせることとなる。
 便宜上、過去パートという言葉を用いたが、本作における「15」から始まるパートの位置付けは特殊だ。例えば、瑞葉が朝顔からバンドに勧誘されたエピソードの、最後の一文は〈今も覚えてるし、たぶんずっと、死ぬまで覚えてる〉。一連の出来事は、青春の真っ只中にいた当時のリアルタイムの記録ではなく、その先の未来の「今」から当時を振り返って語られている。思い出は普通、劣化するものだ。自分や相手の何気ない一言や一挙手一投足であれば、なおさら。にもかかわらず、ここまで詳細が鮮明に記録されている理由は、幸せだった頃の思い出を瑞葉がこれまでの人生で何度も蘇らせて、嚙み締め続けているからこそなのではないかと想像すると、せつなさが高まる。
 ならば本作は、過去に戻りたい、あるいは過去の選択をやり直したい主人公の心情を描いた物語なのか。そうなのかもしれないというフェーズを中盤で一瞬経由したのちに、物語は全く異なる軌道を描き出す。かけがえのない仲間と一緒にいた時の自分は、「光ってた」。たとえ今はその光が消えたとしても、その光の先にある道に今の自分は立っていないのだとしても、「光ってた」という事実は消えない。作中に登場する志村正彦や津野米咲の名前、人気を博しながらも解散したいくつものバンドの名前は、物語からのシグナルだ。彼・彼女らはある日突然、いなくなってしまった。ファンであればあるほど、その事実に直面した当時は衝撃や悲しみが大きかったはずだ。しかし、時を経た今となっては、彼・彼女らが存在してくれた喜びをより強く抱いているだろう。大切なのは「消えた」ことではなく、「光ってた」こと。
 優れた青春小説はいつだって、青春なんてとうの昔に通り過ぎた大人たちの心を勇気づけてくれる。

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 家に飾られていたミュージシャンの写真は「おとうさん」だと、母・くすかに言われて育ってきた新。友人に誘われてバンドを組み、ギターを習い始めたことで人生がカラフルに色づいていく。一方、くすかは息子以上の強度で音楽に救われてきた過去があった……。きっと自分はこの世界で生きていける、と感じられる瞬間が一度でもあれば、人はその思い出を味方にして生きていくことができる。小説を読むという経験も、その瞬間になり得る。

KADOKAWA カドブン
2026年07月10日 公開 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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