『「振り仮名」があれば、学力は上がるのか』
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【毎日書評】その漢字、誰でも読めますか? 「ルビ」から学ぶ、本当に人に優しい文章とは
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
漢字の横に小さく寄り添っている振り仮名は、漢字の多い日本語を読もうとする誰にとっても、とても便利な機能です。知らない漢字熟語でも、どう読めばよいかが一目でわかります。
ところが戦後から現在に至る間に、振り仮名を振った印刷物は減少していく一途です。これは実は大きな問題です。それはなぜか? この本を通してお伝えします。(3ページ「なぜ、現在は振り仮名(ルビ)が少ないのか」より)
これは『「振り仮名」があれば、学力は上がるのか』(松本 大 著、ポプラ新書)の冒頭に書かれていることの引用ですが、実際にはすべての漢字に振り仮名(ルビ)が振ってあります。そんなところからも、著者の振り仮名に対する愛情が伝わってくるように思います。
ただし著者は「一般財団法人ルビ財団ファウンダー」という肩書きをお持ちではあるものの、長年にわたり経済界で生きてきた方。専門家というわけではないのです。にもかかわらず振り仮名(ルビ)にこだわることには、明確な理由があるようです。
漢字が「読めない」ということは、自分自身が興味を深めたい、知識を求めたいと思う人たちにとっての大きなハードルです。
だから私は、「振り仮名=ルビ」が必須なのだと訴えたいのです。
それが、子どもたちの学力アップや、大人やインバウンドで日本を訪れた、または日本在住の外国の方々を含めた多くの人々の知識の蓄積へとつながり、ひいては日本の国力アップへと行き着くことは間違いないと思います。
その思いから綴った本書は、あらゆる印刷物やネット情報にルビを振ろうという提案をまとめたものです。(「はじめに」より)
振り仮名(ルビ)は、新聞や雑誌、書籍などに用いられなくなっています。そこで著者は、印刷物やネット媒体でのルビの普及を推進しているわけです。
きょうは、そんなユニークなコンセプトに基づいて書かれた本書のなかから、第3章「ふりがながひらく日本語の未来」に注目してみたいと思います。なお、「振り仮名=ルビ」ではありますが、ふたつの表記が混在するとわかりにくくなるので、ここからは「ルビ」で統一したいと思います。
広い学問世界への扉を開く
本や雑誌、あるいはネット上の読みものにルビが振られることで、日本の子どもたちの学力は大きく向上していく――。著者は、それは確実なことであると考えているそうです。なぜなら、「読めない」ことには弊害があるから。
“読めない”状況とは、ある種のバリアです。知識を広げ、それを深めたい思いを持つ子どもたちが、知りたい内容に触れられない、ハードルが高くて踏み込めない、ということがあってはなりません。必要なのは、そうしたバリアを取り払い、アクセシビリティを高めることです。(186ページより)
だからこそ、ルビが重要な意味を持つのです。しかもルビの効果は、「漢字が読めれば国語の成績がアップする」というような狭い範囲にとどまるものではありません。読解力向上の土台を支える、もっとも基本とするべき仕組みなのです。
小説や詩などはもちろん、自然科学・人文科学・社会科学などのすべての学問分野においては、書籍も論文も“漢字仮名交じり文(漢字・ひらがな・カタカナを組み合わせた日本独自の文章表記)”で記されています。
したがって、(子どもであれ大人であれ)その知識を理解したい人が“読めない”状況にあることは好ましいものではないはず。そのことについて著者は「かつては技術力や文化で世界に大いに認められていた日本の、ますますの衰退を招きかねません」と述べていますが、これは決して大げさなことではないわけです。
「難しい漢字熟語はできるだけ使うな」というご意見にも、部分的には賛同します。ですが、以前に私が挫折した量子力学の術語のように、その漢字熟語でしか表現できないような内容であるなら、ルビを振ればよいのです。読み方がわかれば、なんとなくであっても意味が理解できます。(187ページより)
この「なんとなくであっても意味が理解できる」という部分は、とても重要なポイントではないでしょうか。“なんとなく”が、さらなる興味へとつながっていくこともあるでしょうし、興味が湧いたなら辞典やネットで詳しく調べることもできるのですから。それは、大人にとっても子どもにとっても意味のあることです。
著者が「広い学問への扉を開くもの」と表現しているように、ルビはさまざまな領域へ足を踏み入れるための“きっかけ”にもなりうるのです。各分野の専門研究者が書いたような難易度の高い文章も、ルビを活用しながら読みこなせば、脳への大きな刺激になるわけです。(186ページより)
「読み方がわからない」ことへの対応
しかもルビの意義は子どもたちの学力向上だけではなく、インクルーシブ(包括的な)社会を支えるインフラともなりえるようです。
難しい漢字が読めない人は、子どもたちだけではなく、教育を受ける機会が少なかった日本人、日本に来て働く外国の方など多岐に及びます。そういった人たちにとって、読めない漢字は日常生活に困難をもたらすバリアとなってしまいます。
公共機関からのお知らせであれ街の張り紙であれ、書かれている文字から検索したり辞書を引いたりすれば、自分にとって必要な意味を知ることはできるでしょう。
しかし、それが読めない漢字で書かれていた場合は、調べることすらできません。
けれども、そこにルビが振ってあれば読めますし、調べることもできます。その結果、漢字の多い文章を苦痛だと感じる方々も、書籍や雑誌、ネットメディアなどをより楽しめるようになるに違いありません。もちろん、日本語そのものに苦手意識を抱いている海外の方々にとっても、大きく役立つツールとして機能するはず。
ルビの効能は、意外と無視できないものなのです。
外国から来た人たちのためにも、これから先、必要になってくるのは、公共資料・行政文書・企業発信の文章などにもルビを振ることです。
現在、行政関係などの紙の文書では、申請すれば目の不自由な方のための点字のものは出してもらえるものもあります。けれども“読み方がわからないこと”への対応は、まだまだ遅れていると言わざるを得ません。(193ページより)
著者はそう指摘していますが、たしかにそんな状況では、「読めない人たちの存在に気づいていない」ことになってしまいます。より多くの人が生きやすい社会をつくっていくために、しっかりと考えていく必要のある問題なのではないでしょうか。(191ページより)
表紙はもちろん、背文字、とびら、奥付に至るまで、文字(漢字)が記載されている部分すべてにルビを振ってあるところも魅力のひとつ。読み終えたあとも、「え、こんなところにも」と、妥協のない徹底っぷりを楽しむことができるのです。その結果、「ルビって、大切なんだな」と実感できるようになるでしょう。
作家、書評家、音楽評論家
印南敦史
1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: ポプラ新書


























