『愛子さん』
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〈書評〉『愛子さん』中脇初枝 著
[レビュアー] 永井玲衣(哲学者、作家)
◆背負わされた戦争が問うもの
本書は中編2作が収録されており、表題作「愛子さん」は、大阪空襲にあった愛子さんが、戦後をどのように生きたのかを描く。家政婦をして生活をつづけるが、語り手でもある愛子さんは差別と困窮に苦しむ。渋谷区で起きたある事件を下地にしたという本作は、ひとりの人間が背負い込まざるを得なかった「戦争」というものの影響を何とかつかまえようとしている。
もう一作の「穴の中の戦争」は少女を視点として、横浜の防空壕(ごう)での日々をとらえる。両作とも全国的な戦争の体験である「空襲」を軸に物語を展開させる。
小田実は『「難死」の思想』にて、あの数え切れない死たちは、国家のために殉じる美しい「散華」なんかではなく、「死にたくない死にたくないと逃げまわっているうちに黒焦げになってしまった」ような「難死」であると書く。はりつめた、焼け跡からの生々しい言葉だ。
空襲体験者ではない(あるいは、まだ、ない)わたしたちは、どのようにこのことを語ることができるのか。たとえば著者は2人の女性を視点として試みている。
本書は、戦争や空襲の実相というよりは、伝わりやすさや、わかりやすさに配慮して描かれているように思われる。だがこういう時こそ、読み手は集中しなければならない。問わなければならない。それは、なぜわたしたちはこれを読むのかという問いである。「この人は、わたしのかわいそうな身の上を知りたいだけで、そう言うて泣きたかっただけやった」。愛子さんは、雇い手である奥さんに自分の身の上話をするが「かわいそうになあ。気の毒やったなあ」と涙を流されつつも「せやけどなあ、戦争やからなあ、しょうがないやん」と言われ、脱力する。わたしたちはこの奥さんと違うと言えるのか。違うと言いたいのならば、どうするのか。
書き手であるわたしもまた、問われている。「かわいそうになあ」でいいのだろうか。しょうがないことだったね、が次の戦争を準備する。わたしたちは緊張すべきだ。
(講談社・2365円)
作家。2013年『きみはいい子』で坪田譲治文学賞。他に『伝言』など。
◆もう1冊
『「難死」の思想』小田実著(岩波現代文庫)


























