「信頼されていた50歳の課長」が24歳の女性と結婚。どんどん評判は下がって… 恋愛観が揺らぎ、穏やかな怖さを味わう短編集『新しい恋愛』高瀬隼子・著
レビュー
『新しい恋愛』
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自分の恋愛観が揺らぎ出す。高瀬作品の怖さが存分に味わえる短編集
[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

恋愛の定義が揺らぐ…(※画像はイメージ)
『新しい恋愛』(高瀬隼子・著)に収録されている五編はどれも恋愛について書かれている。でも、甘美な空気はどの物語からも感じられない。読んでいると、恋愛の定義――考える必要もないほど当然だと思っていたもの――が揺らぎ始めていることに気付く。恋愛は自然発生的な個人の想いではなく、あらかじめ決まった枠の中にある社会の規範の一部ではないか? と考えずにはいられないのだ。
巻頭に置かれた「花束の夜」の主人公、新入社員の水本は、関係を持った先輩の送別会で彼に「これいらねえから」と花束を押し付けられる。持ち重りのするそれを入れるための花瓶を探し、この数カ月を思い返しながら歩き回る水本。大学の頃好きだった人とは手をつなぐことすらなかったのに、会社の先輩と寝てしまうようなことが自分にも起きるのだ、とどこか俯瞰するように自分を見ている。そして思う。〈社会人だったらこのくらい普通らしいし〉と。
恋愛における社会人の普通、がくっきりと反映されているのは「いくつも数える」と題された一編。中堅社員の津野は、部下の信頼を得ていた50歳の課長が24歳の女性と結婚することを知り、すごい、と思う。当事者たちが良ければそれでいいはずだと分かりつつ、すごい、の中には確実にもやもやがあると津野は感じる。職場という社会の中でその年齢差は普通とは受け止められず、課長の評判はどんどん下がってゆき――。
アプリなどで条件の合う人を探すより〈直接広く出会い、ぴんっときたら関係を深める〉のが〈一番新しい恋愛〉になりつつある時代。そこに生きる女性の戸惑いを描いた表題作も含め、恋愛は実のところ大いに社会的な――社会と切り離せない――行為なのだと、深く納得するような気持ちにさせられる。その納得は、そもそも私たちに自由意志なんかないんじゃない? というダークな想像にもつながっていく。高瀬作品の穏やかな怖さが存分に味わえる一冊だ。


























