『昆虫はなぜ海にいないのか』
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〈書評〉『昆虫はなぜ海にいないのか』朝野維起(あさの・つなき) 著
[レビュアー] 尾嶋好美(筑波大学サイエンスコミュニケーター)
◆特有の酵素突き止め新解釈
アブラゼミが好きではない。「死んでるのかな」と棒などでつつくと突然バタバタと飛ぶし、見目麗しくもない。でも、羽化したては、白い胴体と薄緑色の翅(はね)で、非常に美しい。
クワガタやカブトムシも、羽化直後の翅は白い。茶色になるのは、外骨格中にあるチロシンというアミノ酸が、空気中の酸素と反応し、メラニン化が起こるからだそうだ。色の変化と共に、硬化も起こる。
著者は、分子生物学やゲノム科学などの知見を取り入れ、昆虫の外骨格の硬化には「マルチ銅オキシデース2(MCO2)」という酵素と酸素の反応が必須であること、そしてMCO2が昆虫特有の分子であることを突き止めた。
昆虫は、どこにでもいるように思えるが、海中にいる昆虫は、ウミアメンボ、アザラシシラミ、ウミユスリカに限られるそうだ。なぜか?
従来の解釈は「海にはエビやカニなどの甲殻類がいる。そのため、昆虫が後から付け入る隙間がない」というものであった。著者は、この解釈に加えて、「同じ体積の空気と水では、酸素含有量に30倍の開きがある。水中では酸素の量が足りず、外骨格が硬化しないため、昆虫が生息できないからではないか」と推測している。
そして「川などの淡水では、ザリガニなどの甲殻類と、ゲンゴロウなどの昆虫が共存しているのはなぜか?」という疑問については、「海に比べて、淡水にはカルシウムが少ないため、甲殻類は外骨格を作りにくく、成長スピードが遅くなる。一方、昆虫も、水中なので外骨格を形成しづらい。共存しているというよりも、互いが互いを排除できていない状況」だとの考えを示している。
本書の「はじめに」には「現代的な生命科学なしに昆虫は語れない」とあるが、分子系統解析を使って、「昆虫の定義」を行っている点や、酵素反応機序から生態を推測している点に昆虫研究の新潮流を感じた。
(ちくま新書・1056円)
1971年生まれ。東京都立大大学院助教。専門は分子生物学。
◆もう1冊
『人にちょっと話せるようになる「昆虫学」』盛口満著(ベレ出版)


























