ちょっと不運なほうが生活は楽しい
2022/02/25

アンガールズ田中卓志が明かす、初めてのテレビ収録 先輩芸人に指名されて緊張がMAXに達した結果

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お笑い芸人・アンガールズの田中卓志による、ちょっと哀しいのにクスリと笑える日常とは? 文芸誌「小説新潮」の連載で明かされた可笑しみと悲哀がにじむエピソードを公開します。今回のテーマは「初めてのテレビ収録」です。

 ***

 アンガールズを組んで2年が過ぎた頃。僕達はまだ一度もテレビに出たことがなかった。

 ほとんど毎日アルバイトをして、時間がある時にネタを考えて、月に2~3回、都内で開催されるお笑いライブに出ながら、いつかはテレビに出られるようになりたいと芸を磨いていた。

 ただ、2年もすると、自分は一生テレビになんて出られないんじゃないか? と考えることもあった。

 毎日ネタを考えても、なかなかいいネタができなかったり、考えすぎて何が面白いのかわからなくなったり。テレビを見ると芸人は当然面白いけれど、芸人じゃないアイドルの人達も面白い。

 まだテレビに出られていない先輩芸人達ですら、ライブでは僕達の何倍も面白い。

 そんな何倍も面白い先輩が、

「こないだ番組の収録行ったんだけど、全然だめだった。めちゃくちゃスベって帰ってきたよ」

 と落ち込んで言っているのを聞いていると、なんだかテレビに出ることが怖いような気がしてきて、いっそこのまま出ないほうが幸せなんじゃないか? 恥ずかしい思いをしなくて済むんじゃないか? とすら思えてきた。
 
 
 そんな矢先、事務所のマネージャーから、

「1週間後にテレビの収録が入ったから、ネタ用意しといて!」

 と連絡が来た。

 その話を聞いた途端、心臓がビクンと鳴って、全身に緊張が走った。

「何の番組ですか?」と聞くと、「ウンナンの気分は上々。」と言われて、さらに血の気が引いた。

 ウッチャンナンチャンさんや、さまぁ~ずさん、くりぃむしちゅーさん、出川さん、お笑い界の最前線を走る人達が出ている番組。

 その中の、内村さんと、さまぁ~ず大竹さんの私物を、100人くらいの超若手芸人がネタで競り落とすという企画で、内村さんと大竹さんが面白いと思ったら、持ってきた私物を若手芸人にくれるというものだった。

 マネージャーは僕が不安そうな顔をしているのを察したのか、「まぁ芸人がいっぱい出る番組だから、大丈夫だよ」と声をかけてくれたので、僕は「確かにそうですよね!」と返答した。

 なんで芸人がいっぱい出る番組だったら大丈夫なのか全くわからないけれど、その時はもう頭が追いついていなくて、同意するのに精一杯だった。
 
 
 本当はテレビに出られることが嬉しいはずなのに、芸人を2年やってきて、スベることの怖さも知っていた僕は、収録日まで毎日、憂鬱な気持ちが続いた。

 ウンナンさんや、さまぁ~ずさんがテレビに出ているのを見ただけで、緊張するようになった。

 今までは自然と見ることができていたのに、

「今度この人達に会うんだな……面白くないと思われたらどうしよう………うわぁぁぁ!!!」

 みたいな緊張の仕方だ。

 緊張を取り払うために、とにかく持っていくネタをブラッシュアップして、何とか面白いと思ってもらおうと考えた。

 でも、その頃のネタは、正直微妙なものばかりで、山根と相談して決めたのが次のネタだ。
 
 
(二人、学生服を着て後ろを向いて立つ)

 田中 在校生より新入生にお祝いの歌を贈ります

(二人振り向いて正面を向く)

 二人 は~~るの~~うら~ら~~~の~~

(ここからどんどん大きい声になる)

 二人 す~み~だ~が~~~~わ~~~~!!!

 田中 あっ大きい声出しちゃった。

 山根 あははは
 
 
 ……………以上が内村さんと大竹さんの前でやると決めたネタだ。

 正直何が面白いか、皆さんわからないと思う。この頃のアンガールズは特にツッコミも入れない、超シュールなネタばかりだった。

 当時は、こんなネタじゃだめだということすらわかっていなかったので、そのまま収録当日を迎えた。

 ラフォーレ原宿の向かいにあるイベントスペースに行くと、中は200人くらいが入るクラブみたいな場所で、奥にステージがあり、ファッションショーのランウェイのような細長い舞台が、客席に向かって伸びていた。

 既に各事務所から呼ばれた芸人達が集まっていて、荷物を置いて地べたに座ってくつろいでいた。

 しかも集まっているのはアンタッチャブルさん、バナナマンさん、ドランクドラゴンさん、スピードワゴンさん他、テレビで何度か見たことのある若手芸人ばかり。

 一度もテレビに出てない僕達は、浮きまくっていた。

 いつもライブで一緒になっているレベルの芸人なんて居なくて、唯一喋れる相手が、同じ事務所で2年先輩のゴリけんさんだった。でもゴリけんさんでさえ、緊張して話しかけられる状態ではなく、コントで使う原始人の服をきて、時々「オエッ」とえずいていた。

 それもそのはず、先程テレビの収録でスベったことを話していた先輩というのが、このゴリけんさんだったからだ。

 ゴリけんさんは収録でスベる怖さを知っている人間……。原始人がえずいている異様な光景を見て、僕の緊張はさらに増した。

 そのうちスタッフさんがやってきて、全員に向かって番組の説明を始めた。

「おはようございます! これから収録を始めるのですが、大竹さんが『ネタある人?』と言ったら、みなさんコンビ名を書いたプラカードを上げてください。大竹さんがそれを見て指名するので、当たった人はステージに上がってきてネタを披露してください。面白かったら、内村さんや大竹さんの私物が貰えます」

 一言一句逃さないように聞いて、プラカードにアンガールズと書いて収録を待った。

 1時間後に「それでは収録始めます!」という声がかかり、ステージ上に内村さんと大竹さんが現れた。

 当然緊張したけれど、それより収録が始まってすぐ、二人のトークでバンバン笑いが起きて、その衝撃に圧倒されていた。

 そして、大竹さんが「じゃあこの服欲しい人?」と声をかけたので、みんなでプラカードを上げた。

 40本くらいのプラカードが一斉に上がり、指名された人が次々にネタをやっていく。

 ウケる人もいれば、スベる人もいる。誰かがウケたら怖くなって、誰かがスベると安心した。自分達がスベるのは確実だから、仲間が増えていくような気持ちだ。

 でもウケる人は流石に面白くて、僕達とは違い、きっちりとしたネタだった。

 30分番組の収録なのに、気づけば、始まって1時間が経過していた。

 こんなに人数がいてもオンエアされるのは正直10組くらいで、大半はその場の雰囲気作りみたいな役割だ。

 収録が進めど進めど、僕達は指名されなかった。このまま指名されなければいいなぁ、撮れ高十分だろう? とディレクターでもないのに勝手なことを考えて、完全に逃げ腰になった頃に、大竹さんが、「まだ当たってない人?」と言ってきた。

 心臓がまたビクッと鳴って、プラカードを上げると、僕達を含め3本しか上がらなかった。そしてついに、大竹さんが、「じゃあ………アン? ……アンガールズ??」と指名してきた。

 こうなったらもうやるしかないと思いステージに上がると、大竹さんは「うわ、なんだこいつら気持ち悪い。まだこんなやつが眠ってたのか?」と細長い僕たちの見た目に驚いていた。自分達は何もしてないけれど、それが結構ウケた。

「じゃあネタやってみて!」と言われ、先程の台本通りに、二人で後ろを向いた。すると大竹さんが「おいおい! 財布置いてこいよ!」と突っ込み、またドッと会場がウケた。その時は、何でウケているのかわからなかったのだけど、僕は、取られたらいけないと思って、後ろポケットに財布を入れていた。

 しかも長財布で3分の2くらいポケットからはみ出ている。そういえば、財布を持ったまま収録に参加しているタレントなんて、見たことがない。大竹さんに言われて初めて気付いた。素人丸出しで、めちゃくちゃ恥ずかしくて、顔が真っ赤になったけれど、それもめちゃくちゃウケた。

 そして、あらためてネタを頭からやり直した。
 
 
 田中 あっ大きい声出しちゃった。

 山根 あははは

 二人 どうもありがとうございました。
 
 
 やり終えると、大竹さんに、

「終わり???? 最初に後ろ向く意味なかっただろ~凄いの出てきちゃったな~」

 と突っ込まれ、まためちゃくちゃウケた。

 あまりによくわからないネタだったのが、逆に良いほうに転んだのだ。

 自分の実力ではないけれど、何だかウケたので、大竹さんの私物の帽子を貰って帰った。

 そして、その番組の放送日。数々の芸人がカットされている中で、アンガールズのネタは放送されていた。

 ビギナーズラックって、お笑いの世界にもあります。


初めてゴスロリファッションの人を見たのはラフォーレ原宿前です。 イラスト:田中卓志(アンガールズ)

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田中卓志(たなか・たくし)
1976年広島県出身。広島大学工学部第4類建築学部を卒業後、2000年に山根良顕と「アンガールズ」を結成。ネタ作りを担当している。紅茶、苔、バイオリンなど多趣味でもある。
オフィシャルインスタグラム @ungirls_tanaka

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