ちょっと不運なほうが生活は楽しい
2022/05/27

本人も異様さを感じた街頭インタビュー アンガールズ田中が語る、一般人としてテレビに映った自分の姿

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お笑い芸人・アンガールズの田中卓志による、ちょっと哀しいのにクスリと笑える日常とは? 文芸誌「小説新潮」の連載で明かされた可笑しみと悲哀がにじむエピソードを公開します。今回のテーマは「無防備な出演」です。

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 皆さんは、テレビに出たことがありますか?

 今の時代、ユーチューブやティックトックなど、誰かに自分を観てもらおうと思えばいくらでも方法はある。

 ただ、20年前くらいまでは、視聴者参加型番組への出演はもとより、画面の端に見切れただけでも、ちょっとしたヒーローになってしまうくらいレアなことだった。
 
 
 
 好きな番組がある。「家、ついて行ってイイですか?」とか、「ザ・ノンフィクション」といった一般の人が出る番組だ(一般の人という表現だと芸能人は一般の人じゃないのか? みたいな感じになるので嫌なんだけど、他に思いつかないのでここでは一般の人と書かせていただきます)。

 何が魅力的かというと、一般の人の発言は、実はタレントが発する言葉よりも、刺激的で攻撃的なところである。

 テレビのタレントは、今、その瞬間だけテレビに出るのではなく、これからも、できればずっと出ていたい。テレビの世界でおまんまを食べ続けていくためには、若干自分の立場を守りながら、ギリギリを攻めないといけない。

 それに対して一般の方は、何も気を使う必要はないし、誰かの悪口を言おうが関係ない。笑いを取るか取らないかが死活問題でもないので、綺麗なオチが最後にくるようなトークではなく、唐突に面白いことを言ったりするから意表を突かれる。

 そのうえ、着ている服が汚れていたり、しわくちゃだったり、自宅に平気でテレビスタッフさんを招き入れる割には、家の中がぐちゃぐちゃのゴミだらけだったり。面白いと思うポイントを発見しながら見られる面も、好きな要因の一つなのだ。

 タレントだったら、汚い部屋だとイメージが悪くなったり、単純に綺麗な服を着ることで充実した生活をしているのをアピールしたくてたまらない人も多いから、こうはいかないものだ。

 では、一般の人だけで番組を作ればいいのか? もちろん、そういうことではない。

 恐らく一般の人が沢山出てくる番組は、その分取材に長い時間をかけて、何か面白い発言をする瞬間を待ち続けているはずである。タレントのように短時間でスパッと番組を仕上げてくれる人がいなければ、時間がいくらあっても足りない。

 撮影したものの中で放送に使えるものがどのくらいあるか、業界で言う「撮れ高」を高いクオリティで供給してくれるタレントがいないと、テレビの世界は回らない。
 
 
 
 今ではありがたいことに、芸人としてテレビに出演させてもらえるようになった僕だけど、僕もその前は、一般の人であったわけで、芸人になるという夢を抱く前にも、1回くらいテレビに映ってみたいなぁと思っていた。

 そして、3回程チャンスを掴んで、一般の人としてテレビに出たことがある。

 1回目は、広島に住んでいた頃。大学生の時だ。

 それは、広島テレビの夕方の生放送ワイド番組「テレビ宣言」で、どの地方にもある、地元の情報をお届けする、のんびりとした地域密着番組だ。

 その番組には、広島駅前から中継をするコーナーがあり、新規開店の宣伝やイベントの告知など、駅前に行けば、時間が許す限り誰でもPRできるというもの。

 ある日、大学のサークルの宣伝でそのコーナーに出よう! という話になり、僕とサークルのメンバー計5人が一緒に広島駅前に行くと、なんと出演させてもらえることになった。みんなで何を喋るか話し合い、一度に話すとごちゃごちゃするので、サークルの副代表のA先輩がメインで喋ってサークルの宣伝をし、サークルの中で一番面白いT先輩が合間を見て笑いをとろうという作戦になった。僕はというと、後ろの方で立っているだけになった。

 T先輩は色黒で明るくてバイクに乗っていて、いかにもモテそうな人だった。実際モテていたし、サークルの可愛い女の子と付き合っていて、その日も彼女連れで来ていた。

 あまりに充実した大学生活をしていて若干ムカつく先輩だったけれど、T先輩が笑いをとってくれると思うと、この日ばかりは本当に心強かった。

 そして、いよいよ生中継が始まり、テレビカメラの前にみんなで並んだ。

 広島テレビのアナウンサーさんが、

「さぁ今日は何の宣伝で来たの?」と話しかけると、

「僕たちは、大学のサークルで……」

 A先輩がサークルの告知を始めた。僕はうちの笑いのエースT先輩がいつ割り込むのか待っていたが、なかなか入って行かない。生放送は進み、もうそろそろコーナーが終わってしまう。焦りながらT先輩をチラッと見てみたら、片方の鼻の穴にタバコを1本入れてずっと黙っていた。

 あれ? 面白いことをやってるじゃんと思ったけど、目の前にいる中継担当のアナウンサーさんや、テレビスタッフさんが一切笑っていない。しかも、この中継を見ているスタジオの人と音声は繋がっているのに、笑い声が全く聴こえてこない。

 T先輩は鼻タバコが全くウケなかったため、心が折れてしまい、鼻にタバコを入れたまま、何とも言えない固い表情になっていた。

 僕はこんな状態の人が喋れるはずないと察した。テレビでは、うちのエースが全く通用しないのを見て急に怖くなり、そこにいる自分が恥ずかしくなった。

 間もなく中継が終わった。大学生らしい元気のかけらも出せず敗戦ムードでがっかりしたのと同時に、T先輩の言動で笑っていた自分が、今までいかに笑いのハードルが低い環境にいたのかに気づいた。さらにその中継が終わった後、なぜかT先輩が一緒に連れてきていた彼女に、「やってやったぜ」みたいな顔をしていたので、何だかイライラしたのを覚えている。

 こうして、僕の一般人としてのテレビデビューは、何も喋らないで終わった。
 
 
 
 2回目の出演はまたも大学生の時。

 今度は、テレビ東京のカメラだった。

 僕はJリーグのチーム、サンフレッチェ広島を応援するために、広島スタジアムにいた。試合開始前にスタジアムをウロウロしていると、「ちょっといいですか?」と話しかけられた。

 今度はサークルの先輩もいない、僕1人だ。

「サンフレッチェ広島のエース、久保竜彦選手の愛称は何がいいと思いますか?」

 咄嗟の出来事に何も思いつかない。

「え~っと……」

 その当時、三浦知良選手には「キングカズ」井原正巳選手には「アジアの壁」というように、有名なサッカー選手には愛称がつくことがあった。久保選手はまさにグングン来ている選手だったので、愛称をみんなが付けたがっていたのだ。

「えっと~広島だから世界遺産のある宮島と、久保選手の純粋な心から取って、宮島少年!!」

 宮島少年なんてダサくて誰も呼びたがらないと思い、そんなしょうもない愛称しか思いつかない自分が情けなかった。

 試合に熱中する一方で、多分オンエアもされないだろうな~と思いながらその日は帰り、そもそも広島にはテレビ東京の系列局がないので、放送されたかどうかの確認もできなかった。

 それから7年後。上京して芸人になってテレビに少しずつ出られるようになった頃、僕が昔スポーツ番組に出たときの映像があるよ! と言われて、観せてもらった。

 なんと、それは7年前のあの日オンエアされていた「宮島少年」の映像で、その迫力がすごかった。

 まず、僕はサンフレッチェのユニフォームを着ているのだが、なぜかダウンジャケットの上に着ていて、ユニフォームが破けそうなくらいパンパンになっている。おしゃれのカケラもない。

 しかも自分ではちゃんと喋っているつもりだったのに、インタビューに興奮しすぎていて、

「え~~~っとね~~へへへ~ひろしまだからぁ~~へへへ~せかいいさぁんのぉ~みやじまとぉ~~~、くぼせんしゅのぉ~~じゅんすいなぁこころをとってぇ~~みやじましょうねん!!!!!!」(宮島少年だけめっちゃ大きな声で、音声が割れている)

 へにゃへにゃしながらニヤニヤして、急にでかい声を出すという、とんでもなく意表を突いてくる自分がそこに映っていた。正直、内容が頭に全く入ってこないくらい、喋り方にインパクトがあった。

 その異様さにゲラゲラと笑ってしまい、喋っている内容はつまらないけれどキャラクターだけでオンエアされた、素人丸出しの刺激的な自分だった。
 
 
 
 そして3回目は東京に来て、1年経った頃。

 僕はその日、プロ野球のオープン戦「西武ライオンズ対広島カープ」を観に、一人で西武ドームに行く予定だった。

 そこでふと思い出したのが、以前サッカー観戦をしに行った時の上手くいかなかったインタビュー。

 テレビに映れるかも? まさかね……と思いつつも、当時は、広島スタジアムでのインタビューが放送されていたとは知らなかったので、もしインタビューをしている人がいたら、今度こそちゃんと答えてテレビに映ってみたいなぁと、どうやったらインタビューしてもらえるかを考え始めた。

 色々考えた結果、オープン戦なので、その年のセ・リーグの順位予想を段ボールに大きく書いて、それを常に持ち歩くことにした。

 僕は急いでいらない段ボールに、ファンである広島カープを油性マジックで1位と書き、2位阪神……と続けていって、憎き巨人を最下位の6位にした。

 そして、なぜその順位なのか? の理由を順位予想の横に丁寧に書いて、意気揚々と西武ドームへ向かった。インタビューされると決まったわけでもないのに、今度は準備万端だ。

 球場の外野席に座って、ご飯を食べながら試合開始を待っていると、嘘みたいな展開だけど、こちらの方にテレビカメラと女性アナウンサーさんがインタビューしながら歩いてきたのだ。

 え? やばい、来てるよ……でもファンの人はたくさんいるしな……僕のところに来ることなんてないか……と思っていたら、誰にインタビューしようかなぁとキョロキョロしながらパッと僕の方を見た女性アナウンサーさんが、ものすごい勢いで走ってきた。しかもカメラにNHKと書いてある。

「すみません! ちょっといいですか?」

「え? はい、大丈夫です!」

「それ、何書いてるんですか?」

「今年の順位予想です! カープが1位です。巨人が最下位だと思います。なぜなのかはここに書いてるんですけど、カープから江藤選手がフリーエージェントで巨人に行って、悔しいからです!」

 準備しておいたので、全く淀みなく元気よく答えられた。

 自分は観られなかったが、その日のNHKニュースのスポーツコーナーで放送されたらしく、さすがNHKの力というか、親や、地元の友達からも、観たよというメールが来た。

 3回目ともなると、一般人でもどうやったらインタビューされるのか、どうやったらカットされずに放送されるのか分かってくるものだなぁと、我ながら誇らしかった。
 
 
 
 そしてそれから数年が経ち、僕は芸人としてNHK「スタジオパークからこんにちは」に出演することになった。

 平日のお昼に放送される、ほのぼのしたトーク番組だ。

 出演前に依頼されたトークアンケートに西武ドームでインタビューされたことを書いておいたら、生放送当日に、スタッフさんがそのニュースの映像を探しておいてくれて、初めて観ることになった。

 すると、なんとインタビューしていたのは、目の前でMCをやっている青山祐子アナウンサーだったのだ。青山さんはその時の印象を覚えていて、スポーツキャスターとしては日が浅く緊張していたので、面白そうなことを勝手に一人で喋りそうな雰囲気をしていた僕に、近づいたそうだ。

 不思議な縁もあるものだ。その映像を観られて凄く嬉しかったし、映像自体も面白かったのだが、引っかかったこともあった。
 
 
 
 ちょっと慣れすぎている。
 
 
 
 準備が出来すぎているというか、出たい気持ちがあふれすぎている。一般人として何度かテレビに出るうち、テレビ的なことを気にして何だか悪い方向に歩いて行ってしまった感じ。

 一般人としての迫力や、無防備な、何をしでかすのかわからない魅力は、サッカーのサポーターとして、なんの準備もなく出演した2回目の時の方があって、思い切り笑える映像だった。

 今となっては芸人として数えきれないくらいテレビに出演しているので、あの時の無防備な自分はもう取り戻せないのだろうと思うと、少しだけ寂しくなった。


青山アナウンサー イラスト:田中卓志(アンガールズ)

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田中卓志(たなか・たくし)
1976年広島県出身。広島大学工学部第4類建築学部を卒業後、2000年に山根良顕と「アンガールズ」を結成。ネタ作りを担当している。紅茶、苔、バイオリンなど多趣味でもある。
オフィシャルインスタグラム @ungirls_tanaka

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