ちょっと不運なほうが生活は楽しい
2022/07/22

アンガ田中が語った「ジャンガジャンガ」への想い 一度もウケなかったネタが代名詞に

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お笑い芸人・アンガールズの田中卓志による、ちょっと哀しいのにクスリと笑える日常とは? 文芸誌「小説新潮」の連載で明かされた可笑しみと悲哀がにじむエピソードを公開します。今回のテーマは「僕たちの代名詞」です。

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「ジャンガジャンガ」

 それはギャグというよりは、ショートコントとショートコントをつなぐ、ブリッジというものなのだが、僕たちがテレビに出演させてもらえるきっかけになったのが、このジャンガジャンガであるのは間違いない。

 ロケで街を歩いていると、おばちゃんが声をかけてきて、

「あの~~誰だっけ? ……ジャンジャカジャンジャンの………」

 と、ちょっと違うけれど、僕の名前をわからない人でもその響きだけは覚えてくれている、アンガールズの代名詞みたいなものでもある。

 ジャンガジャンガを知らない人のために、少し説明をさせていただく。

 ショートコント 人工呼吸

田中「よし人工呼吸の練習するぞ」

山根「はい」

田中「(心臓マッサージの動き)12345」

山根「(息を吹き込む動き)ふぅ~~~~~~」

田中「12345」

山根「ふぅ~~~~~~~」

田中「12345」

山根「ふぅ~~~~ちょっとしんどい、交代して」

田中「うん」

(ふたりの位置を交代しようとするが、同じ方向に避けたのですれ違えなくて)

二人「あわわわあ、はははは」

「ジャンガジャンガ……………ジャ~ン」

 あえて補足するならば、日常の”あるあるネタ”を動きで表現し、微妙な心理の恥ずかしさの瞬間を切り取るために、ジャンガジャンガをやる。作った当時はなかなか新しい感覚のネタだった。

 これだけ見ると、誰でも簡単に作れそうなショートコントだと思うかもしれないけれど、意外と難しい。

 まずショートコントは大体、1本15秒。その15秒という尺の中に、あるあると微妙な心理の恥ずかしさが共存するネタはなかなか思いつかず、一日考えてもショートコント1本しかできないこともあった。
 
 
 
 芸人になって4年目の頃、「爆笑問題のバク天!」というTBSの番組のオーディションに参加した。

「とにかく変なネタを持ってきてください」というオーダーで、そのオーディションに持って行ったのがジャンガジャンガだった。

 実を言うと、その頃のジャンガジャンガは、お客さんの前でやってウケたことがなかった。

 オーディションの1ヶ月前に、事務所の先輩であるふかわりょうさんの学園祭の仕事について行き、前座として、僕たちがネタをやることになった。600人のお客さんの前でジャンガジャンガをやったところ、600人もいるのに、笑い声ひとつ聞こえなくて、ダダ滑りした。シーンとなったところで、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきて「滑りすぎて迎えがきたね」と自虐して、ちょっとウケただけだ。

 オーディションに行ったら、「俺は簡単には笑わないぞ」という雰囲気の、いかにも気難しそうなスタッフさんがネタを見ていた。これは勝ち目ないなと思いつつ、問題作ジャンガジャンガをやってみた。

 めちゃくちゃウケた。

「え~、こういうの何本もあるの?」と言われ、正直、3本くらいしか無かったけれど、「あと10本くらいあります」と嘘をついたら合格して、番組への出演が決まった。

 まず、僕たちのネタだけの収録があって、それを爆笑問題さん他、タレントさんがスタジオで見る収録が後日行われる。

 僕たちはその現場には行かないのだが、スタジオ収録が終わってすぐ、マネージャーさんから「あのネタいっぱい作っといて」と連絡が来た。どうやらスタジオでもめちゃくちゃウケたらしく、次の出演がすぐに決まったのだ。

 あんなにダダ滑りしたネタがそこまでウケる実感が全くないまま、とりあえずその放送日にオンエアを見ると、確かにタレントの皆さんがジャンガジャンガを見て、めちゃくちゃ笑ってくれていた。

 それまで深夜番組に30回くらいは出たことがあったけれど、ゴールデン番組一発の力はすさまじく、初めて昔の同級生や友達から沢山メールが来た。

 ジャンガジャンガが無かったら、その後何年もバイト生活をしていたのは間違いない。
 
 
 
 それから、18年。今ではジャンガジャンガをやることは、あまりなくなった。地方のイベントでやったり、年に5回くらいは、テレビでちょっと頼まれてやったりするけれど、それだけだ。

 本人がこんな状態だから、街でジャンガジャンガをやっている人なんて一人もいない。

「うちの子がね、家でジャンガジャンガばっかりやって困るんです~」

 と嬉しい苦情を受けていた時代が懐かしい。

 ジャンガジャンガを知らない世代も増えていくのだろう。

 アンガールズの代名詞が消えていくなぁ………。
 
 
 
「田中さん、少しお時間いいですか?」

 テレビ局のメイクルームで、教育学者の齋藤孝さんに話しかけられた。

 齋藤さんは大学で教育学を教えていて、未来の教員を育てるお仕事をされているだけでなく、著書『声に出して読みたい日本語』など、言葉に関して一流の方である。その一方で、「全力!脱力タイムズ」などバラエティ番組にも出演される、面白い方でもある。

 齋藤さんは夕方の報道番組にコメンテーターとして出演するための準備をされているところだった。

 齋藤さんとは、何度か仕事をご一緒したし、メイクルームでも、以前ちょっとだけ喋ったこともある。だけど、ガッツリ喋ったことはなく、話しかけられて驚いていると、

「いや~実は、アンガールズさんのジャンガジャンガをいつも使わせて頂いてるんです」

 と言われた。いや、この令和の時代に、しかもこんな教育学の先生に言われるはずのない言葉だ。

「え?? え?? なんでですか?」と動揺しながら聞き返すと、

「実は僕の授業では、最後に、今日教えたことを学生にショートコントで説明させているんです」

 そんな授業スタイルがあるんだと思ったのだが、齋藤さん曰く、授業で行ったことを理解するのには、それが一番いいらしい。

 授業で学んだことを頭で整理して、ネタを作ることで記憶に残りやすくなったり、理解が深まったりするそう。しかも、自分達で動いたりセリフを口にしたりすることで、もっと記憶に残る、さらにそれが笑いというものに繋がると、もっともっと記憶に残る。

 ちゃんとエビデンスに基づいた教育方針らしいのだ。

 ただ、この教育方針には難点があったようで、

「いや~僕のこのやり方なんだけど、授業の最後に『じゃあこれをコントで発表してくれる人いる?』と聞くと、みんな恥ずかしがってやらないんですよ~」とのこと。

 まぁ、人前でコントをやるなんて普通の人ならみんな嫌がるし、芸人だって、さっき聞いたことをすぐにコントにするというのは、なかなか難しい。

 齋藤さんは「別に滑ってもいいから、やることで記憶に残るんだから、ウケる滑るは関係ないのに……」と言うけれど、やっぱり人前で滑るというのは、一生のトラウマになるくらいの出来事だったりする。僕も大学生の時、学部の新入生歓迎イベントで「田中卓志なので、ヘイタクシーって呼んでください」と言ってやや滑った瞬間は、今でも思い出すと、頭がうわ~~~ってなる。なんであんなこと言ったのだろうと、大学構内を歩くのすら恥ずかしくなった記憶がある。

「大学生の滑りに対する耐性を甘く見過ぎだよ……」と齋藤さんに教えてあげたかったけれど、齋藤さんは続けて、

「でね、僕がこう言ったんです、面白くなくてもとりあえずコント作って、最後にジャンガジャンガって言えばウケるんだから! って。そうしたら1グループの大学生が出てきて、ショートコントの最後にジャンガジャンガをやったらウケたんですよ。それから他のグループもどんどん出てきて、ジャンガジャンガのショートコントをやってウケて。今では毎回、授業の最後にみんなで、ジャンガジャンガのショートコントをやってるんです」

 と感謝してくれたのだ。

 ジャンガジャンガが世に出てから18年が経って、いまだに使われているのにも驚いたが、齋藤さんの編み出した教育法の最後のピースとして、ジャンガジャンガがぴたりとはまったことが、とても嬉しかった。

 齋藤さんが「勝手に使っているので、許可を頂いてもいいですかね?」とおっしゃったので、「どうぞどうぞ! そんなものでよければ使ってください」と喜んで許可した。

 ただ気になったのは「面白くなくてもとりあえずコント作って、最後にジャンガジャンガって言えばウケるんだから!」という言葉。

 最初に書いた通り、ジャンガジャンガとは、あるあると微妙な心理の恥ずかしさを切り取ったネタであり、なかなか難しいことをやっていて、一日考えても1個しかネタが作れないこともある。

 齋藤さんにそれを伝えようと思ったところで、とどまった。

 確かに自分の中ではお笑いとして難しいことをやっていると思っていたけれど、世の中の人には、なんかコント作ってジャンガジャンガって言えばウケるんだから、という雑な印象で伝わっていたのかもしれない。そしてこの雑な印象が、笑いに繋がっていた一因だったのかもしれない。

 短いコントを雑にジャンガジャンガで繋ぐことがある意味面白かったのだ。

 ジャンガジャンガには困った時に強引に笑いに持っていく救済措置的な要素も含まれていることを、言葉のプロである齋藤さんに言われて気づいた。

 本来の意図はわかる人にだけ伝わればいいのである。

 世の中から消え去ったジャンガジャンガは今、ひっそりと教育現場で役に立っている。

『声に出して読みたい日本語』にジャンガジャンガが入れば、新たな世代に引き継がれるかもしれない。

 そんなに甘くはないか……。


イラスト:田中卓志(アンガールズ)

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田中卓志(たなか・たくし)
1976年広島県出身。広島大学工学部第4類建築学部を卒業後、2000年に山根良顕と「アンガールズ」を結成。ネタ作りを担当している。紅茶、苔、バイオリンなど多趣味でもある。
オフィシャルインスタグラム @ungirls_tanaka

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