ちょっと不運なほうが生活は楽しい
2022/08/26

アンガールズ田中がタイムカプセルの中に残した「絶対にすべらない言葉」 パワーショベルまで出動させた特番ロケの結末とは

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お笑い芸人・アンガールズの田中卓志による、ちょっと哀しいのにクスリと笑える日常とは? 文芸誌「小説新潮」の連載で明かされた可笑しみと悲哀がにじむエピソードを公開します。今回のテーマは「タイムカプセル」です。

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 時間が経ってから自分が書いた文章を読むと、面白かったり、恥ずかしかったりする。さらに、忘れ去ってしまっていた当時の情景を思い出したりすることもある。自分の言葉を乗り物にして、少しだけタイムトラベルしているような気持ちになれる。
 
 
 
 大学生の時、サークルのメンバー20人程で広島県府中市にある河佐峡(かわさきょう)という場所にキャンプに行った。サークルには、後にアンガールズを組むことになる山根もいた。

 そのころは、将来一緒にお笑い芸人をやるなんて思ってなかったけれど、お互いに気が合って、一緒にやったレクリエーションの司会は、大学生レベルだけど相当ウケた記憶がある。

 綺麗な川が流れ、岩の上から飛び込んだりして遊び、夜になるとキャンプファイヤーや、きもだめし、たくさんの思い出が出来て、帰り際にみんなでタイムカプセルを埋めようという話になった。

 それぞれ小さな紙に、将来の自分へのメッセージや、このキャンプの思い出などを書いてクッキーが入っていた大きめの缶の中に入れると、缶は紙で一杯になった。

 それをキャンプ場の隅っこに埋め、サークルのみんなで、その埋めた場所を指差し、写真を撮った。
 
 
 
 それから、20年。

 広島で放送されている「元就。」というアンガールズが広島県内をロケをする番組で、河佐峡を訪れた。「このキャンプ場にタイムカプセルを埋めたな~」とスタッフさんに話したところ、「今度、番組のゴールデン特番で、そのタイムカプセルを掘り出してみませんか?」と提案された。掘り返してみたいと思ったけれど、僕だけの判断で決めるわけにもいかない。そもそも誰か他のサークルのメンバーが、もう掘り返しているかもしれない。

 とりあえず連絡がつく限り、キャンプに参加していた人に相談したところ、誰も掘っていないということがわかり、番組で掘ることも快く許可してくれた。

 ラストにタイムカプセルが出てきて、中に詰めこまれていたみんなのメッセージを読んで感動したり懐かしんだりする、ほっこりした番組になることは間違いない。ゴールデンにはもってこいの企画が決定した。

 そして番組の盛り上がりを意識しつつ、僕自身が誰よりも掘り起こすことを楽しみにしていた。

 僕がそのタイムカプセルの中に残したのは、絶対にすべらない言葉だったからだ。

 何を書いたのかは覚えていない。でも、そのキャンプでめちゃくちゃウケた言葉を書いたことだけは覚えている。言うだけでドカンとウケる、パワーワードだった。

 僕はその言葉をタイムカプセルから掘り出して、これからの芸能人生に使ってやろうと企んでいた。

 石塚英彦さんの「まいう~」、志村けんさんの「アイ~ン」、オードリー春日の「トゥース」……。言うだけでウケるレベルのパワーワードが、過去の自分からプレゼントされるなんて。期待に胸を膨らませてロケ当日を待った。
 
 
 
 ゲストに柴田理恵さんを迎えて、ロケが始まった。最高のゲストだ。

 僕の中には、タイムカプセルから出て来たみんなのメッセージを読んで、「若い頃を思い出すわぁ~」とハンカチで目を押さえる柴田さんがもう見えている。いいラストが迎えられそうだ。

 当時撮影した写真を手掛かりに早速掘り返すことになったのだが、キャンプ場の隅々まで歩いてみても、その場所が見当たらない。写真の中では、電柱の右側で、サークルのみんなが埋めた場所を指差している。そんな場所がどこを探してもないのだ。

 電柱なんてなかなか位置が変わるものでもない。電柱を目印に目的の場所を探していると、キャンプ場の裏山の中に電柱が見えた。

 写真に写っている電柱によく似ている。肩まである草を掻き分け山の中に入っていくと、当時の面影をわずかに残したその電柱であることがわかった。

 20年の時が経ってキャンプ場の位置が少し変わっており、当時はキャンプ場だったところには草木がボーボーに生え、すでに森になっていた。

 埋めた場所の地面すら見えないので、まずはそこの草刈り作業からスタートすることとなった。カメラマンや音声さんが入ってこられるように、10畳くらいの範囲の草をみんなで刈る。

 1時間くらい経っただろうか。やっと刈り終わって、いよいよ掘り出すときがきた。

 写真と見比べながら、みんなが指差している場所を特定し、スコップで掘り進める。

「ガリッ!」

 柴田理恵さんやスタッフさんから「おおお!」という声が上がる。ゆっくりとその周りの土を払ってみると、ただの大きな石だった。

「なんだよ~」

 テレビ的にもいいフェイントだ! 「ここでCMを跨げるぞ」なんて言いながら、さらに掘っていった。

 しかしここから少しずつ、雲行きが怪しくなる。その場所を掘っても掘っても、土しか出てこないのだ。

 穴の深さが1メートルに達しようとした時に、「いや俺たち、こんなに掘ってないよな~」と山根が言った。

 確かに、どのくらい掘ったか覚えてないけれど、流石に1メートルなんて深さに埋めないし、クッキーの缶が埋まればいいと思ったので、せいぜい50センチだ。

 場所がずれているのかと思い、柴田さんにも協力してもらい、その周辺を掘ってみる。しかし、全く出てこない。

 時間は17時を過ぎ、辺りが徐々に暗くなって来ていた。このままではマズいということになり、万が一の時のために用意していた金属探知機を駆使して探知することになった。

 すぐに「ピーーーー!」という音が鳴り、その場所を掘り返してみたが、何にも出てこない。聞くと、微妙な金属成分にも反応するから間違いはあるらしい。その後も、鳴っては掘り鳴っては掘りを繰り返すも、出てくるのは石だけ。金属探知機の性能に腹が立つくらい、何も出てこなかった。

 柴田理恵さんの顔にも疲れの色が浮かんできた。このままだと、感動のラストシーンで泣いてくれないかもしれない。

 その場にいる人全員に焦りが見え始めた。

 辺りが真っ暗になって、照明をつけながら作業を進める。この時、写真に写っている土の部分は、もう全て掘り返していた。

 もはや時間がないので、僕の実家にある小さいパワーショベル(僕が160万円も出して買ってあげた)を持ってきて掘ろうということになった。僕はそれの使い方がわからないので、地元の人に運転してもらった。

 流石パワーショベル、人間がスコップで50回くらいすくう量を、1すくいで掘り出せる。しかし、その後1時間掘り続けても何も出てこない。

 パワーショベルのグワァ~~~という音に紛れて、「本当に誰も掘り返してないのかな?」という声が上がったり、「もう、何も出ませんでしたっていうオチにしようか?」とスタッフさんのガチの相談が始まっていた頃、写真の場所から7メートルくらい離れた場所を掘り返したら、何か塊が見えた。

「ストップ!!!」

 僕が大きな声で運転手に告げると、パワーショベルが止まった。それは平たい金属の塊で、間違いなくあの時埋めたクッキー缶の蓋の部分だった。

「蓋だ!」

 掘り始めて4時間が経っていた。みんなのため息が歓喜の声に変わる。

 20年の間に雨の影響で土砂と一緒に流れたのか、7メートルも動いていたから驚きだ!

 その周りを探すと、缶の下の部分が土から顔を出した。

「おおおおおお!!!」

 物凄い声が上がった。

 よし! ゆっくり掘り返そうと思ったのと同時に、動揺の声が辺りを包んだ。

 缶は蓋が外れているので、当然中が見えるのだが、土がパンパンに詰まっていたのだ。

 え? 俺たちのメッセージは? 缶の中の土の下にあるのか?

 山根と僕は缶から土を出してみたが、中には何もなく、紙切れ一つ見つからなかった。

 20年の月日の中で、缶の中には当然水が入ってしまい、防水対策をしていない紙は腐り、土に戻ってしまっていた。5~6年なら紙のかけらくらいは残っていたかもしれないけれど、20年も経つと綺麗に土に変わっていて、跡形もない。柴田理恵さんから「あんたたち、なんで防水対策してないのよ~」と叱責を受けて、ロケが終わった。

 結局、柴田さんの涙は1滴も流れないままだった。

 何も出なかったという番組のオチはそれで済んだのだが、僕の書き残した渾身のギャグワードが土になってしまったことが悔しくて、跡形もなく消えた紙と対照的に、後悔だけが僕の中に残った。
 
 
 
 それから数日して、その番組が放送された。すると当時一緒のサークルで同学年だったT君からLINEが入った。

「タイムカプセルの番組見たよ、お前が書いたキャンプで流行った面白い言葉覚えてるよ」

 僕が忘れていたパワーワードを、T君は覚えていたのだ。

 しめた! これで一度は腐って土になってしまったギャグが思い出せる! わざわざテレビの企画で掘り出した甲斐があった!

 すぐさま「え? 本当? 何ていう言葉?」と返すと、

「『ほんまに~』だよ」

 ………何も面白くない。

「ほんまに~」とは広島弁で本当に? という意味。

 僕は一瞬「え? そんな言葉?」となったが、忘れ去られていた記憶が徐々に蘇って、タイムトラベルが始まった。

 確かにそのキャンプで「ほんまに~」と言ったら、みんなが笑っていた情景を思い出した。そして、切り株の上に座って、メッセージの紙に「ほんまに~」と書いた自分も思い出した。大学の内輪のメンバーで、ちょっと響きが面白いからというだけで「ほんまに~」と繰り返し言ってゲラゲラ笑っていた自分を思い出し、自分の笑いのレベルの低さに落胆した。
 
 
 
 紙が腐って土へと変わってしまったように、その当時新鮮でウケていた言葉も時を経て腐ってしまったような感覚に包まれた僕は、その思い出に蓋をして、もう一度土を被せたのだった。


イラスト:田中卓志(アンガールズ)

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田中卓志(たなか・たくし)
1976年広島県出身。広島大学工学部第4類建築学部を卒業後、2000年に山根良顕と「アンガールズ」を結成。ネタ作りを担当している。紅茶、苔、バイオリンなど多趣味でもある。
オフィシャルインスタグラム @ungirls_tanaka

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