ちょっと不運なほうが生活は楽しい
2022/09/23

「お前らに飲ませる紅茶はねぇ!!!!」アンガールズ田中がキレた港区女子との最低な合コン

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お笑い芸人・アンガールズの田中卓志による、ちょっと哀しいのにクスリと笑える日常とは? 文芸誌「小説新潮」の連載で明かされた可笑しみと悲哀がにじむエピソードを公開します。今回のテーマは「紅茶と港区女子」です。

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 数々の失恋をしてきた。でも僕の失恋は失ってばかりではない。

 初恋のMさん。小学校の同級生だ。僕は彼女に二度恋をする。

 一度目は小学生の時。二度目は上京してまもない頃。母親から「Mちゃんがね、中国に行ってお茶の勉強をして帰ってきて、地元でお茶屋さんを開いたんよ」と電話で聞いた。初恋の思い出と共に、その「お茶の勉強」という品のあるワードに僕の心が燃えたぎった。

 そうだ、僕は紅茶の勉強をしよう! いつかMさんに会ったら、お茶の話ができるかもしれない。共通の話題があれば、一気に距離が縮まって初恋の人と付き合えるかもしれない! よし、すぐ紅茶を買いに行こう。

 完全に不純な動機で紅茶を好きになったのだ。

 動機こそ不純だったが、始めてみると紅茶の世界はとても深く、正しい紅茶の淹れ方、そして紅茶の歴史や種類など知識が増えていくのも楽しかった。

 その後、テレビで初恋の人に告白するという企画があり、Mさんに、告白。

 結果……あっさり振られて、僕の体に紅茶だけが残った。

 その失恋の傷を埋めてくれたのは、囲碁の先生だった。好きになって囲碁を始めた直後に、先生が結婚。囲碁だけが僕の体に残った。

 次に恋に落ちたのがバイオリニスト。バイオリンを始めて告白したら振られて、バイオリンだけが僕の体に残った。

 テレビでこの話をしたら、僕は、好きになった相手の特技を趣味にコピーしていくモンスター呼ばわりされるようになった。でも、全ての趣味を今でも続けているので、ただただ不純なモンスターではないことだけは、声を大にして言っておきたい。

 特に紅茶に関しては、ほぼ毎日淹れて飲んでいる。家の棚には茶葉を常に100種類くらい置いていて、朝、紅茶を飲みながら窓の外を見ている僕は、シルエットだけは英国紳士と全く同じだ。夏は水出し紅茶を作り、秋・冬はホットのフルーツティーも淹れてみる。僕は芸能界でも屈指の紅茶に詳しい芸能人になって、紅茶の番組だけでなく、あの「午後の紅茶」のCMにも出演させてもらった。
 
 
 
 そんな僕が新たな恋を求めて合コンに参加した。同じ事務所のロッチの中岡が主催だ。

 メンバーはイケメンの後輩芸人、我が家の坪倉と僕で、3対3の合コン。

 女性陣が合流するまで30分くらいあったので、恵比寿の居酒屋に先に入り、中岡に好みの女性について話していた。

「いや~俺たちみたいなブサイクはさ、『港区女子』みたいな女性と付き合うのだけはやめような、あいつら俺たちみたいな人間をすごく下に見てくるじゃん!」

 僕は港区女子という存在が苦手だ。かなり苦手。嫌いに近い苦手。以前、港区女子と飲んだ時、ブサイクだからということだけで見下され、イライラさせられたことにも起因する。港区女子の自分たちは充実しているというアピールが苦手だし、アピールする姿勢が必死すぎてめちゃくちゃダサく見えてしまう。まぁ、全部僻みと言われればそれまでなのだが……。

 中岡は、「確かにそうだよな~俺もそういう女の子は嫌いだよ。今日の女子はそんな子じゃなくて、みんな良い子だから」と答えた。

 わかってるじゃん中岡。今日の合コンはうまくいきそうだ。

 坪倉も合流し、約束の時間を迎えそわそわしていると、店員さんが「お連れ様お待ちです」と女性陣を連れてきた。

 扉の向こうから現れた女性。

 清楚系。うん、かわいらしいワンピース。

 そして、何が入っているの? と聞きたくなるような小さすぎるカバン。

 清楚かと思ったけど、意外と化粧をバッキバキにしている。

 ……これは完全に港区女子だ。言い方は悪いが、3人の生意気そうな雰囲気の女子が目の前に立っていた。

 中岡に「おい、どういうことだ?」と聞きたかったが、彼女たちを目の前にしてそんなことを言うわけにもいかない。

 ……いや、見た目は港区女子だけど、中身は良い子かもしれないじゃないか。ブサイクだからということだけで見下されイライラした僕が、同じ過ちを犯してなるものか。

 僕は必死に愛想良く振る舞った。この合コン男性3人の中でイケメンは坪倉しかいない。彼女たちからしたらハズレの合コンかもしれない。でも、せめて楽しんでもらえるように頑張るのが、ブサイクの戦い方だ。

 僕は率先して彼女らにサラダをとった。坪倉が彼女たちの名前を間違えようものなら「違うよ、Aちゃんだよ」と修正した。自分が楽しむよりも、この時間が彼女たちにとって過ごしやすい時間になるように考えて動いた。

 しかし合コンは坪倉の一言で急に流れが変わる。

「今から女の子の順位をつける!」

「えええええ~~!」

 不満なのか、楽しんでいるのか、よくわからない彼女たちのリアクション。坪倉はそんなことも気にせず、女子3人に1位2位3位と順位をつけた。これがイケメンの合コンでの戦い方なのか……。僕の感覚では、こんな機嫌が悪くなりそうなことは言えないというか、実際少し不機嫌になっているし……。

 芸人としてもそれなりに場数は踏んできたほうだ。僕は機転を利かせる。

「あっ、じゃあこうしよう、今度は女子が男子の順位をつければ良いじゃん」

 次は彼女たちの番。仕返しとばかりに坪倉を最下位にできる絶好のパスを出してあげた。……つもりだった。

 彼女たちはあろうことか、3人とも僕を最下位にしたのだ。

「いや、今のは坪倉を最下位にするためのパスなんだよ!!」

 と、心の叫びが噴出すると彼女たちはケラケラと笑っていた。お笑い的にはこれで良いのかもしれない。

 でも、港区女子はお笑いとかではなく、ただただブサイクを最下位にしていたと思う。

 港区女子はやっぱり想像通りだった。

 合コンが終わった後、僕は恵比寿の駅前で中岡を叱りつけた。そして、もう二度と港区女子と飲まないという約束をしたのだった。

 失恋をしたときとは逆に、僕は何も得るものがなく、心が荒んでいくような思いだった。
 
 
 
 それから1年が経った頃、中岡から、頼み事の電話が来た。

「あのな、一斤五千円もするめちゃめちゃ高級な食パンもろうたんやけどな、折角ならめちゃくちゃ美味しい紅茶と一緒に食べたいな~思うて電話してん」

「紅茶を淹れて欲しい」という中岡からのお願いを、僕は即快諾した。

 もちろん美味しいパンを食べたいという気持ちもあったけれど、呼ばれて他人の家で紅茶を淹れたことがなく、初めての出張紅茶だったからだ。

 僕は、その当日、パンに合う茶葉を100種類くらいの紅茶コレクションの中から選んでいた。シンプルな食パンだからダージリンやアッサムをストレートで淹れてもいいかも。いや、でも待てよ、自分の好みだけ押し付けても仕方ない、リンゴやイチゴが一緒に入ったフルーツティーもいいかもしれない。紅茶の色が真っ赤になって、パーティーの雰囲気にピッタリだ。でも人の好みは様々、……決めきれないから、いくつか持っていこう。あとは、ティーセットも! 折角の紅茶だから、良いティーセットで飲んだほうが気分も上がる。

 僕は持参する10万円のティーセットが割れないように一つずつ丁寧にタオルで包んで、大きな袋に入れた。

 かなりの重さの紅茶セットをタクシーに積んで五反田にある坪倉の家に向かうと、中岡はもう来ていて、先輩のスピードワゴンの井戸田さん、ケンドーコバヤシさんも参加していた。

「まず鍋をみんなで食べて、その後パンパーティーにしよう」と中岡に言われ、「パンを食べる前に鍋を食べるの? 先に紅茶とパンをサクッと食べてから、ゆっくり鍋をしても良いのでは?」と思った。

 でも、夜7時だったので確かにお腹が空いていて、みんなも喜んでいたから、それに従った。あとどうでも良いかもしれないが、僕的にはティーパーティーであったけれど、中岡的にはパンパーティーだった。……そうだった、パンを引き立てるものとして今日は紅茶を持ってきているんだ、でしゃばらないようにしなければ。

 2時間くらいかけて鍋を食べて、さぁそろそろパンパーティーだ! と思った時に、中岡が、

「実は、今日女の子を3人呼んでるんだよ。これから来るから」

 と衝撃の一言を放った。嫌な予感しかしない。

 中岡が呼ぶ女性に良いイメージがない僕は勘弁してくれと思ったし、人数が増えるなら、ティーセットをもう3組持って来なければいけない。紅茶を細部までこだわりたいと思って、準備してきたんだから。しかも、女性を呼ぶなら事前に言っておいてほしい。芸人だけでワイワイやって楽しかった空気が、他人が入ってくると変わるかもしれないし、気も遣う。

 大体、港区女子だとしたら、正直僕の淹れた紅茶なんて飲まないし、飲んだとしても「別に普通じゃん」とか言われて終わりなんだ。人が傷つくことを平気で言う種族なのだから。僕みたいなブサイクと港区女子は、紅茶とパンみたいな関係になることなんて無いのだから。

「え? 合流するの?」

 女性が合流するのが嫌な雰囲気を出して中岡に聞いたが、「うん、もうこっち向かってんねん!」と言い放った。

 僕は彼女たちが来る前にティーパーティーを開いて終わりたかったが、みんな鍋でお腹が一杯になってしまい、なかなかパンを食べたがる人がいない。これは、どう考えても女性が合流してからの開催になってしまう。

 僕は、今から来る女性が港区女子じゃないことだけを願った。恵比寿の駅前で中岡をあれだけ叱ったんだから、もう、そういう子とは縁を切っているはず。

 しばらくすると、インターホンが鳴った。

 僕はインターホンに一番近い席に座っていたので、通話ボタンを押した。オートロックの場所にあるカメラ映像が映り、そこには3人の女性がいた。

 港区女子だった(いちおう、以前の合コンとは違う港区女子だ)。

 絶望しかなかったが、もう一度言わせて貰うと、見た目で人を判断するようなことだけはしてはいけない。自分がされて嫌なことをしたら終わりだから。

 オートロックの解錠ボタンを押して、女性たちを通してあげた。

 間もなく玄関のインターホンが鳴った。

 家主である坪倉がドアを開けると、3人の女性たちが入ってきた。しかし、あろうことか僕たちや、先輩のケンドーコバヤシさん、井戸田さんに挨拶もせず、ダイニングをすり抜け、ずかずかと部屋の奥にあるソファーに座り、3人だけでコソコソ飲み始めた。

「え? 他人の家だよね? 挨拶もないのか? しかも何なんだよ! 最悪俺はいい! ブサイクだし! そういう目で見てくるのはわかってる。でも、先輩たちもいるんだから挨拶くらいしろよ! 人間としておかしいだろ!!」

 怒りが爆発しそうだったけれど、僕はグッと堪えた。

 もしかしたら、いきなり男子がいる部屋に来たから、緊張しているのかもしれない。ここは、知り合いである中岡が間に入って、みんなに挨拶を促せば良いだけだ。中岡から紹介してもらえれば全て解決する。中岡を見ると、すぐに彼女たちのほうに歩いて行った。

 わかってるじゃん、中岡。そう思った矢先、中岡は女性の側に座って普通に飲み始めた。紹介もせずに……。

 僕はこの瞬間怒りが頂点に達し、身体中の血液が沸騰するような感覚になり、叫んだ。

「お前らに飲ませる紅茶はねぇ!!!!」

 自分で丁寧に包んで持ってきたティーセットや紅茶の茶葉は袋から一度も出さないまま部屋を飛び出し、気づいたら五反田の大通りでタクシーを拾っていた。

 心配して追いかけて来てくれた坪倉に、

「申し訳ないね、空気、俺が壊しちゃって。でもあいつらに俺の紅茶を飲ませるわけにはいかないんだよ」

 と告げた。

「いや、良いですよ。あの態度はないですよね。紅茶飲みたかったですけど、仕方ないです」

 坪倉が気を遣ってくれたが、僕はそのままタクシーに乗り込んだ。

 失恋でもない港区女子の嫌な思い出が蘇ったからなのか、シミュレーションまでした紅茶がうまくふるまえなかったからなのか、ずっと僕は苛立っていて、その一件からしばらく中岡とは険悪になった。だから僕はアメリカ独立戦争のきっかけとなったボストンティーパーティー事件になぞらえて、このことを勝手に五反田ティーパーティー事件と呼んでいる。


可愛いけどムカツク それが港区女子 イラスト:田中卓志(アンガールズ)

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田中卓志(たなか・たくし)
1976年広島県出身。広島大学工学部第4類建築学部を卒業後、2000年に山根良顕と「アンガールズ」を結成。ネタ作りを担当している。紅茶、苔、バイオリンなど多趣味でもある。
オフィシャルインスタグラム @ungirls_tanaka

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