ちょっと不運なほうが生活は楽しい
2022/11/25

アンガールズ田中、「抱かれたくない男」「消えると思う芸人」ランキングへの恨みを語る

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お笑い芸人・アンガールズの田中卓志による、ちょっと哀しいのにクスリと笑える日常とは? 文芸誌「小説新潮」の連載で明かされた可笑しみと悲哀がにじむエピソードを公開します。第19回のテーマは「ランキング」です。

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 色々なテレビ番組や雑誌、サイトで発表される「ランキング」。

 そういうものに影響されないほうがカッコイイ人というイメージがあるので、僕も「あまり影響されないほうです!」と言いたいけれど、実際にはそうではない。

 行ったことがない駅に降りると、美味しいラーメン屋がないか? とネットで「美味しいラーメン屋トップ10」を検索して、5位以内にランクインしているお店に入ってしまう。

 イベントで宇都宮に行った時も「宇都宮美味しい餃子屋さんランキング」で1位のところに行ったら行列ができていて、泣く泣く2位のところに行くとそこも行列ができていた、ということがあった。誰しも考えることは同じだし、みんなランキングの影響をすごく受けている。

 上位にランクインしているお店はいいだろう。けれど、下位にランキングされたラーメン屋さんの店主は、ラーメン屋ランキングに参加したいと表明しているわけではないだろうに、開店した時点で半強制的に参加させられ、勝手に不利益な目にあってしまうのだから、たまったものではないと思う。

 ラーメン屋だったらラーメンの味で順位付けされるが、芸能界にいると、個人やグループのイメージでランキングされる。

 人間自身が商品だから仕方がないのかもしれない。でも、影響を受けるのは商品であっても一人の人間だ。

 彼女にしたい芸能人ランキングや上司にしたい芸能人ランキング。芸能界にいるだけで、それらには半強制的に参加させられる。
 
 
 
 僕自身も芸人になって4年目の、やっとテレビに出られるようになった年に、芸能雑誌「日経エンタテインメント!」の「来年消えると思う芸人ランキング」にすぐさまランクインさせられた。

 若手でこれから頑張っていこうという時だったからかなり傷ついたし、芸能界でやっていけるのか不安になった。

 それでも1年頑張って、次の年にその芸人ランキングを見ると、またアンガールズが入っていた。

 再び同じように傷ついた。

 そしてその次の年も入っていた……。いい加減にしてくれよ! と思ったが、どこにこの怒りをぶつけていいかわからない。

 そもそもこんなランキングをやって、得をする人がいない。

 好きな芸能人ランキングなら、それにランクインした人の好感度が上がるし、美味しいラーメン屋ランキングなら、上位の店は客が集まる。

 でも消えると思う芸人ランキングなんて誰も得をしない。出版社が雑誌のページを少し埋められるくらいだ。出版社の小さな得のために、結構なダメージを芸人は喰らうことになる。

 そもそも、出たての芸人の足を引っ張るようなランキングなんてやめたほうがいい。

「芸能人にとってはそれも有名税だから、文句を言うな」と思うかもしれないが、何かやらかして、消えると思う芸人ランキングに入れられるなら、まだ仕方ないと諦められる。でも真面目に頑張っているのに、そういうランキングに入れられるのだから、ムカついてならない。

 もし一般の企業に当てはめるとしたら、1年目の新人社員の中で、来年クビになると思う人ランキングを作って会社の壁に張り出すようなものだ。そのランキングに入った新人は潰れてしまうだろう。

 日経エンタテインメントの編集部の人は、自分が1年目だった時の気持ちをぜひ考えて欲しいものだ。

 僕はそれから数年後、なんとかテレビの世界に生き残っていたある日、テレビ番組の収録で日経エンタテインメントの編集長に会った。

 ランキングに入れられたことをずっと根に持っていた僕は、やっと怒りをぶつける時が来たと思い、収録の合間を見計らって編集長に、

「消えると思う芸人ランキングありますよね? 若手の頃よくもアンガールズを毎年のように入れてくれましたね、今でもずっと腹が立ってますからね!」

 と言ってみた。すると、

「いや~すみません、あれは僕は担当してないんですよ~」

 と言われた。

 まぁ、そんな答えが返ってくるだろうと予想していたが、ムカつきは収まらなかった。でも、自分もどう返事をもらえたら許せるのかわからなくて、その場は笑って終わらせた。

 そして帰り道、タクシーの中で考えた。

 どうしたら許せるだろうか。

 せめて、「来年消えると思う芸人ランキング」に入っても次の年消えなかった場合、その人のところに菓子折りを持って日経エンタテインメントが謝りに行ってくれれば許せる。そのリスクを日経エンタテインメント側が負ってくれたらいいのに。今度編集長に会ったらそれを伝えようと思ったのだが、それ以降会っていない。

 もやもやした気持ちのまま10年くらい経ったある日、日経エンタテインメントから、ラジオ番組「オールナイトニッポンPODCAST アンガールズのジャンピン」の取材をさせて欲しいという依頼を受けた。

 その取材当日のこと。

 記事にならなくても「消えると思う芸人ランキング」に入れられて嫌な思いをしたことを取材でも話そうと思っていると、僕がこういうランキングがおかしいと言っているのをなぜか取材スタッフさんは知っており、取材の冒頭に「消えると思う芸人ランキングでアンガールズさんを入れてしまい申し訳ありません」と謝罪された。

 予想だにしなかった展開に驚いていると、

「実は消えると思う芸人ランキングは2年前から廃止にしているんです。読者からも気持ちよく読めないという意見をいただいてやめたんです。あと、その頃の編集長は変わっていまして、今は僕が編集長なんです」

 と言われた。

 わざわざ編集長自ら謝りに来るなんて、ちゃんとした会社だと思った。

 まぁ以前はそういうランキングをやっていたので、ちゃんとした会社になった、というのが正しい表現かもしれない。

 でも、長年続いたものを違うと思った瞬間やめるということは簡単ではないので、積年の恨みがスッと晴れた。
 
 
 
 僕がランクインしているランキングがもう一つある。

「抱かれたくない男ランキング」だ。ランキングの中でもかなり有名なほうだと思う。

 2017年に、僕はそのランキングの1位になった。

 日本国内で最も抱かれたくない男になるという感覚は、皆さんわからないだろう。

 それまで何年もの間、1位は出川哲朗さんだったのだが、そのいわゆる絶対王者を倒しての1位となった。そこから、数年間1位をキープして、今年は2位になっているが、常にTOP3には入っている。

 お笑い芸人という職業的には、いわゆる「おいしい」ポジションなのかもしれない。確かに、来年消えると思う芸人ランキングよりはトークのネタにできる。

 僕も、自分がテレビに出るようになるまではそう思っていたし、お笑い芸人になってランクインするまで、そう思っていた。

 しかし、実際自分が1位になってみて、結構ムカつくことに気づいたのだ!

 出川さんは今までよく文句を言って来なかったなぁと思った。あの人が愛されるのはそういうところだろう。

 でも僕は言わせてもらう。

 抱かれたくない男とは、ある意味、世の中で一番接したくない男ということだ。ランキングなんて所詮お遊びだと思われるかもしれないが、そうではない。

 実際、ランキングの上位に入るようになってから、テレビ収録のスタジオ観覧の女性から、僕が喋ると悲鳴が出るようになった。

 それは関係ないよと言うかもしれないが、ランクインした側から言わせてもらうと、かなり影響があるし、合コンでも信じられないくらいモテない。僕が合コン会場に入った瞬間の女性のがっかりした顔を思い出せないくらい何度も見た。

 ラーメン屋と一緒で、世の中の人はランキングに左右されるのだ。

 さらにランキングをよく見てみると、自分が1位になった年は、社会的に問題を起こした芸能人が4位や6位にランクインしている。真面目に芸能活動をしている僕が1位で、道徳に反したことをやった芸能人がその下位に入っている。納得がいかな過ぎる。

 やらかしタレントを上位にすれば、まだこのランキングにも意味はあるだろう。社会的に問題を起こすとモテなくなるという、世直し的な警鐘にも繋がるからだ。

 ただ真面目に生きている僕が上位に入っているのは、我ながらあまりにも不憫だ。

 さらにおかしいのが、本当の犯罪者はランキングに入らない。芸能界では毎年と言っていいほど、誰かが罪を犯して捕まる。俳優、ミュージシャン、芸人、タレント、どのジャンルからも犯罪者が出る。

 しかし、不倫など、ちょっとやらかした人はランキングに入るけれど、逮捕された人はランクインしないのだ。僕が投票権を持っていたとしたら、絶対に犯罪者に投票する。

 一体このランキングに投票している人はどんな人なのか? ランキングの記事には「読者が選んだ」と書いてあることが多い。そしてその読者たちが田中に投票した理由を読んでみると、「定番でしょ?」とあった。

 大した理由もなく、定番で選ぶような人間が投票しているのがよくわかる。

 抱かれたくない男という、その一個人にマイナスイメージをつける重要なランキングなのに、なんとなくで投票してしまっている!

 抱かれたくないランキングをやるなとは言わないが、こっちも本気で受け止めてやるから、本気で考えて投票しろと思う。

「今年、誰かやらかしたタレントいないかな?」とか「あの人、反社と付き合いあるからな」とか、しっかり考えて投票しないと、ランキング自体の信憑性もなくなる。

 わかってもらえないかもしれないけれど、1位になるとしたらしっかりした理由を聞き、ちゃんと納得した上で抱かれたくない男1位になりたいのだ。

 ついでに言わせてもらうと、適当にランキングに投票するような人間をこちらは抱きたいとも思っていないのに、「お前には抱かれたくない!」と一方的に拒否されているようなのも腹が立つ。投票している人はそもそも抱きたくなるような人間なのか! ひどいランキングに入れられているのだから、ブーメランを返させてもらいたい。匿名で投票しやがって、ロクな人間じゃないだろう。

 ……少し言い過ぎたかもしれないが、そう思って自分のメンタルを保つようにしている。

 とにかく、まともな人が投票すれば僕が1位になるはずがない!! これを芸人の楽屋で熱弁したら、

「田中くんおかしいよ! だって田中くんは罪を犯してなくても、テレビでよだれを垂らしたり、女性タレントに告白してフラれたらそのタレントに向けて恨み節を吐いたりしてるんだから、十分ひどい。そんな人と罪を犯したイケメン俳優を比べたら、世の中の女の人は犯罪者のイケメン俳優に抱かれたいでしょ! 真面目に考えて投票しても、田中くんが1位になる可能性があるよ」

 と返され、急に怖くなってきた。


イラスト:田中卓志(アンガールズ)

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田中卓志(たなか・たくし)
1976年広島県出身。広島大学工学部第4類建築学部を卒業後、2000年に山根良顕と「アンガールズ」を結成。ネタ作りを担当している。紅茶、苔、バイオリンなど多趣味でもある。
オフィシャルインスタグラム @ungirls_tanaka

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