トミヤマユキコ「たすけて! 女子マンガ」
2016/09/16

最強な女たちのパラダイス「女の友情と筋肉」「その娘、武蔵」(「たくましい女」その1)

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 女の人生をマンガに教えてもらおう! をテーマに文芸誌『yomyom』で連載中のトミヤマユキコさん「たすけて! 女子マンガ」。今回のテーマは「たくましい女」です。強い女はかっこいいけど、たくましすぎるのも気が引ける……? そんな遠慮はいりません。尋常でない強さをもったマンガの女たちには、案外参考にできるところも多いのです。

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 生まれ変わったらV6の岡田准一になりたい。格闘技によってバキバキに鍛えあげられたあの肉体が死ぬほど羨ましい。あれだけたくましいのに、彼にはジャニーズアイドルとしてのキラキラ感もある。カッコいいし、たくましいって、最強だ。来世では絶対ああいう男になる。なってみせる。……とか言いつつ、現世でたくましくなることにもちょっと興味がある。ここでいうたくましさとは、精神的なたくましさはさておき、肉体的なたくましさ。たくましい女になれた暁には、どんな人生が待ち受けているだろうか。女子マンガを読んで妄想してみたい。

 KANA『女の友情と筋肉』は、筋骨隆々の女子3人が主人公の4コママンガ。メーカー勤務の「イオリ」は、身長195cm、握力97kgの怪力女子。商社OLの「ユイ」は、身長189cm。100mを10秒8で駆け抜ける。そしてアパレル販売員の「マユ」は、身長186cmで、ソフトボール投げの記録は85m。彼女たちにつけられたキャッチフレーズは「ちょっとマッスルだけどとっても優しい女の子達」。でも、実際は「ちょっとマッスル」どころではない、超弩級の身体能力の持ち主だ。会社に遅れそうなときは「遅刻遅刻――!!!」と言いながらパンをくわえて走り出す……のではなく、空をビュンビュン飛ぶし、キャンプで火を起こしたいときはアウトドア派の殿方に頼む……のではなく、手のひらからエネルギー弾を放出する。おい、人間離れしすぎだぞ(最高)!

 はじめてこの作品を読んだとき、本当に驚いた。彼女たちの身体能力がすごすぎるから、というよりは、その特異な身体能力を除けば、ちゃんと「女の子している」からである。彼女たちはわたしたちと同じように働き、恋をし、友情を育む。残業をこなしたり、彼氏の浮気を疑ったり、女子会でパンケーキを食べたりするのだ。「実はレスリングの選手でした!」みたいな設定は、一切ない(オリンピックに出たらどうかと提案されるエピソードがあるが、誰ひとり興味を示さない)。「じゃあなんでこんなにムキムキなんだよ!?」という読者の問いをスルーするかのように、彼女たちの毎日は続いてゆく。笑えるほどたくましいのに、笑えるほどふつう。この落差がストーリーを推進する力になっている。

 どう見ても度を超したムキムキぶりなのに、彼女たちは身体的コンプレックスをあまり感じていない。服のサイズが合わないことはあるけれど、だからって、痩せたい&小柄になりたいと本気で悲しんだりはせず、モリモリ食べて、じゃんじゃん筋トレに精を出す。さらにいえば、彼女たちはムキムキゆえに男たちから敬遠されるタイプでもない。事実、三人とも交際相手がいるのだ。まさに「リア充」としか言いようがない恋愛模様である。

 なお、彼氏たちはみんな非ムキムキ系であり、ムキムキ女子でなければ愛せないというわけではない。彼らカップルの間を行き交うのは、ごく純粋な恋心だけだ。ふつうじゃない体格に、ふつうの恋愛が搭載される。このバランス感覚、ほんとうに絶妙だ。

◆強い女が愛される世界

「たくましい女」と聞くと、なんとなく「男勝りで女子としての魅力は二の次なのかな?」というイメージが浮かびがちだが、そういう偏見がないのが女子マンガの世界のようだ。というかむしろ、たくましい女たちはかなり魅力的に描かれている。たとえば、類い希なる才能を持つバレーボール女子「武蔵」を主人公とする田中相『その娘、武蔵』でも、彼女の幼馴染み「建人」は、身長184cmの武蔵に想いを寄せている。バレーに夢中な武蔵は、建人の恋心にまるで気づいていないが、彼は頬を赤らめ「これからこれから…」と、ひそかに恋心をあたためている。デカくて男勝りな武蔵と、彼女より背が低くてちょっぴり奥手な建人。それを「スポーツ万能な少年に控えめな少女が恋をするという男女の設定を反転させただけ」と言ってしまえば、確かにそうなのだが「反転させただけ」で、物語の風景は一気に変わる。男の子の持ってるやわらかさとか可愛げとかが描かれることで、ものすごく厚みのあるキャラクターになる。「男らしさ」ではない魅力の引き出しが開くのだ。

 武蔵(あるいはイオリたち)のようにデカくてたくましいことは、男であれば「男らしさの理想型」かもしれないが、女の場合は「女らしさの平均値」からのズレを意味してしまう。しかし、平均値からズレてる女だって(そんな女たちに恋してる男だって)100%魅力的なのだ!ということを描いているのが『その娘、武蔵』であり『女の友情と筋肉』である。わたしには彼女たちが、女らしさの平均値を気にしてついキョロキョロしてしまう女たちをつかのま解放してくれる存在に思える。そりゃ、わたしだって鬼ではないし、控えめな女子が出てくる恋愛マンガを全否定するわけではない。でも、平均値にチューニングが合っている女の恋は、読んでいるうちに「やっぱそこは合わせないとダメなのか~!」と思わされて、やや辛いのもまた事実。ガキ大将みたいな性格で、小学生のころから男子と対等に喧嘩したり、生まれ変わったら岡田准一になりたいとか思ってしまうわたしは、どう考えても「チューニング合ってない系女子」だから、たくましい女がチャーミングに描かれていることが余計に嬉しいのかもしれない。

 過去の記憶を辿るに、たくましい女を好きになった最初のきっかけは、スタジオジブリの映画『魔女の宅急便』だと思う。同作に登場する「おソノ」さんは、とにかく明るくて、陰気なところがひとつもないパン屋のおかみさん。初めて観たとき「なんか、身も心も頑丈そうな女だな~」と好感を持った。彼女は、美人キャラでもないし、妊婦だからいわゆるセクシーな体つきでもない。でも、ヒロインより誰より、彼女が一番イイ女に見える。なぜって、自分の直感と判断力を信じているから。キキが魔女だと知っても怖がらないし(「へえ! ワ~オ!」とか言って喜んでる)、キキ&ジジとの共同生活をひとりで決めてしまう(夫は蚊帳の外)。デーンと構えたおソノさんは、ほかのどの作中人物より、たくましいし、頼もしかった。

 たくましいことは、しばしば暴力的な印象を呼び寄せてしまうこともあるが、たくましさと暴力性は、本来全然違うものだ。その「よく考えれば違うのに混同されてしまうこと」を丁寧に描いている作品をわたしは愛する。かつてのわたしにとってそれは『魔女の宅急便』だったけれど、いまはそこに高い身体能力がプラスされたイオリや武蔵の物語に惹かれる。より強く、よりたくましい女が、より肯定的に描かれる物語が、この先もっと増えるといいなと思う。それはきっと、わたしを「女らしさの牢獄」から自由にしてくれるから。

《「たくましい女」その2につづく》

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