わたしの相棒 中野貴至

「小説新潮」発 あの人のとっておき

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芸人の掛け算

 ある売れっ子芸人さんに面と向かって言われたことがある。「お笑いの作家なんて、この世に一番いらん職業よな」
 本当にそうだと思う。そう言われても悔しくはない。何なら首がもげるほど頷いた。自分でもそう思う。

 ただ一方で、その芸人さんは信頼できる作家にこれまで巡り合うことがなかったんだろうなぁと。かわいそうに思うし、「僕なら違ったかもしれないです」という激イタ発言をそっと胸にしまって、ニコニコ聞いていた。

「わたしの相棒」は芸人だ。構成作家・放送作家などと世間から呼ばれる仕事をしている。世間でのイメージは「テレビ番組の企画を考える人」だろう。高須光聖さんや鈴木おさむさんといった偉大な先輩方が確立した姿だ(※一度もお会いしたことないのに名前を出してすいません)。

 しかし僕は華やかなテレビ業界で活躍できたわけではなく、芸人と共にライブやYouTube、ラジオを支える「座付き作家」と呼ばれる立場で細々とやっている。

「座付き作家」といえば昔は芸人とネタを作る人のイメージだったが、今は役割が多岐にわたる。芸人の単独ライブで言うと、流れの進行台本を書くのはもちろん、コーナーを企画し着替えなどの幕間をつなぐブリッジVTRの企画・撮影・編集も担う。ここでの編集はカットだけでなく、テロップをつけて、音やエフェクトも全てつけるものである。時にはネタの相談にものるし、ライブで使用する音源、効果音も全て集め、道具やカツラや衣装を発注し、アンケートのQRコードも発行する。これらは単独ライブの話だが、普段はYouTubeの撮影・編集もするし、ラジオの作家もすれば、長編のコントを書いたりもする。

 マジ多岐である。正直、もう少し評価されても良いのではと思う。

 とはいえ全て「芸人」あってのこと。一人では何も出来ない。

 だからこそ、僕のモットーは「芸人の掛け算になる作家」だ。

 その芸人の良さを2倍から3倍、あるいは10倍にできるように努めている。もちろん×1となり何の役にも立たない時もあれば、時には×0になって迷惑をかけてることもあるかもしれない。それでもなんとか、色んな芸人さんに信頼してもらうことが出来て、嫁と子供を養っていけてるのは、多少は掛け算になれている証なのかも。

 ふと、幼少の頃を思い出す事がある。隣にはいつもクラスで一番おもしろい友達がいた。いたというか、今思えば僕が寄って行ってたんだろう。昔から「面白いやつと、面白いことをする」のが好きな僕にとって座付きの作家は天職なのかもしれない。

 これは意外に思われるかもしれないが、僕はこれまで15年以上完全プライベートで芸人さんと遊んだことはほぼ皆無である。悲しいかな仲良しと呼べる芸人もいない。どれだけ年下でも敬語を使い、ビジネスライクな距離感を保っている。これはこれで、決して良いことじゃないと思っているが、それはまた別の話。

 いつか冒頭の芸人さんにとっても「掛け算」になれるように、日々精進していきたい。

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中野貴至(なかの・たかし)
島根県松江市出身。構成作家。Podcast「マユリカのうなげろりん!!」「紅しょうがは好きズキ!」、YouTube「見取り図ディスカバリーチャンネル」などに携わる。