もういちど会いたい 宇野碧
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仕上がっていた十三歳

目が合うと、その子はにひっと音がしそうな笑顔を向けてきた。
そのとたんに彼女のことを好きになった。きっと、彼女と初めて出会うほとんどの人がそうだと思われた。
あれは十五年ほど前。沖縄の山村留学の施設で、一週間ほどボランティアをしていた時のことだった。全国から集まった小中学生達が共同生活をして、地元の学校に通いながら、地域の行事や農作業に参加し、さまざまなことを学ぶ場所だ。どの子もそれぞれの個性があって思い出深いけれど、中学一年生のKちゃんは別格だった。
ショートカットで日焼けしていて、手足がすらっと長く、あふれるほどの愛嬌がある。ボーイッシュで健康的で、顔は似ていないけれど全盛期の内田有紀(世代がバレる例え)を思わせる魅力と輝きを放っていた。今でこそ推しは細分化しているけれど、かつては国民的アイドルというか、誰もが好きな芸能人というものが存在していて、Kちゃんはそういうタイプの人間だった。
私が知っている中学一年生で、初対面の大人と如才なく話せるケースは稀だ。あいさつくらいはできても、すぐにぎこちなく目をそらして同級生との慣れ親しんだコミュニケーションの中に逃げ込む。
その点、K ちゃんのコミュニケーション能力は驚異的だった。
「Kです。丑年で牡牛座で、焼き肉屋の孫やねん」
自己紹介からして、キャッチーでつかみが強い。話してくれる自分のエピソードが面白いだけでなく、人の話をよく聞き、軽妙な返しをしてくれる。どんな年齢の人とも、相手に合わせたコミュニケーションが取れる。私が白いワンピースを着ていると「かわいい、天使みたい!」とすかさずほめてくれるし、私が彼氏の事で悩んでいると話すと、「あー、わかる気がする。お母さんの友だちにこういう人がいて…」と、自分の引き出しの中からさっと呼応する材料を取り出して共感を示してくれるので、気づくと十三歳の彼女に人生相談をしていたくらいだ。
さらにK ちゃんは仕事もできた。誰よりも全体に目配りがきき、グループ作業やミーティングの際には年下も年上も嫌味なくまとめるリーダーシップがあったので、私も常にKちゃんに指示を仰いだ。
遠くに行かせたがらない家族を説得するために、「難関私立に合格して本気度を見せる」と自分で条件を定めてクリアし、沖縄行きを勝ち取ったらしい。なんという意志と実行力だろう。私が同じ年の頃はクラゲのようにぼんやりと漂っていて進路のことなんて考えていなかった(当時の写真を見ても、顔からしてぼやっとしている)。
Kちゃんはどんな大人になっているのか。私がネットで名前を検索してでも現在の姿を知りたいと思う人は彼女くらいなのだけれど、名字も知らないので叶わない。
だけどきっといつか、その顔を見つける日が来るんじゃないかと思っている。テレビやネット、あるいは新聞記事の中で。
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宇野碧(うの・あおい)
1983年神戸市生まれ。2022年、『レペゼン母』で小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。今月18日に最新刊『アンダーザスキン』が発売。


