「最後の万能の天才」の知られざる日常を描いた『ライプニッツの輝ける7日間』試し読み①
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微積分や二進法、モナド論、計算機など、さまざまな分野で業績を残したライプニッツ。残された10万ページのメモの整理は今も続き、未発表だった研究が次々明らかになるとともに、再評価が進んでいます。
今なお全貌の見えない知の巨人に、新たな切り口から挑んだのが本書『ライプニッツの輝ける7日間』(ミヒャエル・ケンペ[著]、森内薫[訳])です。ライプニッツ研究の第一人者である著者ミヒャエル・ケンペは、ライプニッツの70年の生涯からあえて「7日間」だけを選んで重点的に論じることで、その人物像と創造の現場を立ち上がらせようとしました。
ライプニッツは、どのような時代を生き、どんな暮らしをしていたのか。創造の瞬間はいつ訪れたのか。本書の一部を紹介します。
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ハエ
そいつは天井から降下し、部屋じゅうを飛び回り、方向をさっと変えながらあっちへ行ったりこっちに行ったりしている。イエバエの動きは、とはいえもうそれほど速くはない。日はだいぶ短くなり、ハエはゆっくりと窓辺に降りていく。寒さでハエの動きはにぶくなるが、ストーブが徐々に熱くなると、松明(たいまつ)とろうそくの光で照らされた小さな部屋をまた縦横に飛び始める。窓ぎわにはもう一つの熱源がある。そばのテーブルの上には、食事の残りと、砂糖入りのコーヒーが入ったカップがある。糖分に誘われて、ハエがテーブルへと飛んでいく。
そのとき、黒っぽい熱源が動き始める。攻撃のためにふり上げられた手が影を落とすや、ハエは風のように素早くそれを避ける。手の所有者の目は毎秒20フレームしか処理できないが、ハエの目は同じ1秒のうちに約200フレームの画像を認識する。それに、その手の動きはハエにとってはスローモーションのように、信じがたく遅い。手が振り下ろされるころにはもう、厄介者のハエは向きを変え、ストーブのほうに飛び去っている。小さな虫はそこから、永遠と思えるほど長い時間、椅子に座ったままでいる大きくてあたたかい影を見つめる。そしてときおり、魅惑的な砂糖に向かって懲りずに飛んでいく……。








