第一回 博物館のおはなし

教えて田島先生! 楽しくてやめられない生き物のおはなし

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©さはら そのこ
©さはら そのこ

 初めまして。今回より連載を開始することになりました国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループの研究主幹をしております田島木綿子たじまゆうこと申します。
 獣医師であり、博士号なんかも持っております。博物館では海に棲む我々の仲間である哺乳類を担当しており、個人的な調査・研究対象も海に棲む哺乳類の「かたち」と「病気」にまつわるもので、博物館活動にも従事しています。

 そもそも海の哺乳類に興味を持ったのは大学時代です。
 といっても崇高な理由があったというよりは、幼き頃から動物好きだった田島と、女性は何か専門的で免許が取得できるような分野に進んだ方が生き易いはず、と本人の経験も後押しした教育熱心な母親の意向が相まった結果、獣医大学に進学することになるのですが、どちらかというと野生動物方面の獣医領域に目覚めた卒業間際、図書館で様々な本を手に取っていた中、海に棲む哺乳類の代表格であるシャチの本と出会い、田島の研究人生に一筋の光が差しました。

 シャチは英語でKiller whaleと呼ばれるほど獰猛で、同じ仲間のイルカやアザラシも捕食する海の覇者というイメージが強いです。しかし、その本を読んでみると、実はそんなシャチもビッグママを中心とした母系社会を形成しながら、子育てはおばさんシャチ、お姉さんシャチなどみんなで協力し、子シャチは母シャチに甘え、幼いシャチたちは遊びが大好きで、母系社会のグループ毎に方言があったりするのです。

  まさに人間社会と同じ構図であり、そんな彼らをもっと知りたいと思うようになってしまったのです。外からの印象と彼らの本質とのギャップに完全に萌えてしまった田島は、そのままシャチのメッカの1つであるカナダのバンクーバーで彼らを観察する学術ツアーに単身で参加し、田島にとっては完璧なフォルムを醸し出す野生のシャチを見てしまってからは、完全にシャチの虜になり、海の哺乳類全般に関わる仕事や研究に携わりたいと強く思うようになったのです。

図1. 海で泳ぐシャチ(Robert Pittman)
図1. 海で泳ぐシャチ(Robert Pittman)

 多くの獣医師は愛玩動物や産業動物といった人間社会と密接に関わる、いわば人間が作り出した動物たちに関わる仕事に就くのがほとんどです。そのため、野生動物を対象とした仕事や研究機関はまだまだ少なく、途方に暮れることもありましたが、まずは研究者にとっての「免許証」にあたる「博士号」を取得しよう、その間に色々と模索しようと楽観的に考えた学生時代、国立科学博物館の海の哺乳類研究室の扉を叩いたのでした。
 そんな田島にとって、博物館の日常は驚きの連続で、そもそも生物とはどんな生き方をして、どんな定義や法則があるのか? など、これまで考えたことも無いことを問われ、その生物を分類する? 系統という概念がある? 標本が博物館の骨幹? など生まれて初めて触れる事柄も多く、世界は広いというより、開かなければならない扉は無限にあることや、同じものを見ても、こちら側の目が違えば、違う捉え方があることなど多くのことを経験しました。
 さらに、どうやら生物を知るためには周囲の環境を知ることも重要らしいとか、生き物は実に様々な種で構成されており、〇〇ネズミという名前の動物でも実はネズミの仲間ではないなんてことも知るようになると、楽しくて面白い反面、難しく一筋縄ではいかない側面もたくさんあるのが科学であり学問であるのだと改めて気づかされ、負けず嫌いも後押しした結果、どんどんのめり込んでいくようになり、今では博物館、自然史、生物などについて先生と呼ばれる立場にあることを本人が一番驚いています。
 ただ、前述したように、そもそもこうした分野に長けた経験を持ち合わせてはいなかったので、博物館や自然史に初めて触れる方の戸惑いやお気持ちは比較的理解できるため、架け橋的存在になれるといいなあとも感じている今日この頃です。
 この原稿を作成最中、日本人研究者お二人がノーベル賞を受賞されたというニュースが飛び込んできまして、おっ、サイエンスや研究という単語を少し身近に感じて頂ける良いタイミングかな? 良いぞ、良いぞ、追い風が吹いてる吹いてる、と感じております。

 ところで、田島の勤務先である博物館がどんなところなのか、みなさんは知ってらっしゃいますか? そして、どんな歴史を辿ってきたかご存知ですか? 日本では知的好奇心や知的財産を満たしてくれるところは美術館、科学館、博物館など様々な名称で表現されますが、英語ではArt MuseumやNatural History MuseumといったようにそのほとんどをMuseumで表現します。 
では、そもそも、Museum とはいったいどんなところだったのでしょうか。今回はそんなところから始めてみたいと思います。

 小学生の頃、学校の社会科見学で野外の植物園に行くはずが雨天のため屋内施設のまさか将来の職場になるとはつゆ知らずの国立科学博物館になった時、とても残念に思っていたお外大好きっ子の田島でしたが、今では職場ということを抜きにしても博物館が大好きになっております。「知らない」ということは人生においてもったいない、つまらない結果をもたらす事を、身を以て体験している次第です。
 皆様にもこの連載を通して博物館然り、生き物や自然環境、それにまつわるエトセトラを少しでも楽しい! 大好き! 面白い! わからない?! と思って頂けるきっかけになれるよう精進して参ります。