第二回 博物館で何してるの?
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先日、マレーシアで国際学会があり博物館スタッフや国内研究者とともに参加してきました。
野生動物を保全していこう! One Health(動物も人も地球も1つの大きな健康体という考え方)を目指そう! という学会で、我々も海に棲む哺乳類に関する研究発表を沢山してきました。
さらに学会プログラムの1つでもあるワークショップをKota Bharu(コタ・バル)獣医大学で開催し、網にかかって死んでしまった混獲個体のスナメリ2頭とカワゴンドウ1頭(どちらもハクジラ類で、スナメリは日本にもいますがマレーシア周辺にいるのは日本とは別種、カワゴンドウは日本周辺にはいなくて、アジア圏の河川に棲息するカワイルカの1種、つまり2種とも日本人にとって日頃はお目にかかることができないとても貴重な個体のため、調査できることにワクワクが止まりませんでした)を検体として、動物が死んだ後に実施する死後調査(法獣医学的調査:法医学的調査の動物版と捉えてください)を国際色豊かな参加者とともに実施しました。
特にカワゴンドウは、学術調査で訪れたミャンマーのイラワジ川を悠々と泳ぐ個体を観察した経験はあったのですが、死体を調査する機会は日本人にとってはほぼ皆無ですので、貴重な経験となりました。
今回は博物館に勤務する我々が日々どんなことをしているのか? を少しご紹介します。
国立科学博物館(National Museum of Nature and Science、以降、科博)は独立行政法人であり国立の博物館です。
そのため各地にある博物館とは少し違う独自の規定や法律の下に成り立っているところもあります。


わたくしのように科博の研究部に所属する者の肩書きは研究員または研究主幹であり、担当する分類群の研究をすることが仕事であり求められる業務の1つです。
そのためには担当の分類群を中心に1:標本を収集し、2:研究して、3:展示や教育普及に活用する、という3つが科博の大きな柱として掲げられています。
科博は自然史(Natural History)を中心とした博物館であり、収集し収蔵される標本たちは、自然の一部を切り取り、観察や調査、研究する対象であるので、その結果や標本が自然や地球といった全体の理解にも繋がることがあります。
標本を収集するといっても分類群によって様々です。科博は動物、植物、生命史、そして理学分野の4つの研究部に分かれており、それぞれの研究員がそれぞれの分野に従事しています。
生命史は人類分野と古生物分野に分かれており、人類分野はその対象がもちろん我々ヒトでありヒトの骨や遺跡から出てくる様々な出土品を調べ、ヒトのルーツを解き明かしたり、日本人はどこから来たのか? 人間史そのものを解析したりすることもあります。
古生物分野はアンモナイトや三葉虫など一度は必ず耳にしたことのある生物種や大人気の恐竜化石まで多く扱っています。
理学分野は自然史分野とその科学史を研究する分野に分かれますが、地球を構成する地質や鉱物から天文や地震などを扱い、これまでの科学の発展も扱っています。
植物分野は腊葉標本(植物を平らに押しつぶして乾燥させた押し葉標本)だけでなく、生きた樹木や草花も生体標本として存在し、分類学、系統学、生態学などの研究を進めています。科博の筑波実験植物園にある植物も生体標本ですので、絶滅危惧種や域外保全種などを含めて日夜研究が進められています。
そして我らが動物研究部は、海生無脊椎、陸生無脊椎、そして脊椎動物の3つのグループに分かれています。
私は背骨のある動物を扱う脊椎動物研究グループに所属し、海に棲む哺乳類全般を担当しています。同グループでは魚類や鳥類、両生類、爬虫類や陸上哺乳類を担当する研究員も所属し、標本収集から研究、そして展示や教育普及に従事しています。
標本の種類は多種多様で、毛や丈夫な皮膚をもつ分類群(ほとんどの哺乳類・爬虫類・鳥類)では獣毛・羽毛剥製標本が作成でき、脊椎動物(魚類、鳥類、両生類、爬虫類、哺乳類)では骨格標本も作成します。
内臓や体の一部を専門の液体に浸けて保管すれば液浸標本となり、冷凍保管すれば冷凍標本の出来上がりです。伝統的に骨格標本がその大部分を占める時代が長く続きましたが、時代のニーズに合わせて、標本の種類も多様化しているといえましょう。


近年では、研究により得られた遺伝子情報やMRIやCTのデジタル画像、フォトグラメトリー画像までもが標本として保管されるようになり、鯨類の胃から発見された海洋プラスチックですら、時代を物語る標本として皮肉にも丁重に保管されるようになりました。
海に棲む哺乳類の場合、研究や調査のために彼らを捕殺することは世界的に推奨されていませんので、我々としても殺生することは極力行いません。
主に、自ら海岸に打ち上がり死亡した個体(ストランディング個体)を研究や博物館の標本に活用しています。
しかし、ストランディングとは、いつ、どこで、どんな種が、何頭打ち上がるのか? はこちら側では全く予想することができず、完全に相手任せとなります。いつかのヒット曲ではないですが、🎶ストランディングは突然に〜🎶なのです。
そもそも日本周辺に、鯨類は世界の約半分の45種が生息または回遊しており、他の海棲哺乳類の鰭脚類(7種)や海牛類(1種)と比べて、圧倒的種数を誇っており、アジア圏では一番鯨類がいる国であり、鯨類大国といっても過言ではありません。そのため、我々の調査や研究対象が鯨類になる機会も多くなります。
ストランディングが発生した一報が飛び込んでくると、それまでの日常は一変します。目の前で取り組んでいた仕事や研究は、昔のホームドラマでがんこ親父さんが、ブチギレてちゃぶ台の上のものを手で全部ザーッと払い落とすように、ザーッと横に置き、そこから一刻も早い準備や現場との交渉が始まります。




