第四回 「産む・育てる」の作戦  ー哺乳類編ー

教えて田島先生! 楽しくてやめられない生き物のおはなし

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©さはら そのこ
©さはら そのこ

 生物が次世代を産み、育てる過程には様々な作戦が存在します。今回は我々も含まれる哺乳類ほにゅうるいの作戦について紹介します。
 恐竜が地球上で最も繁栄していた約2億年前のジュラ紀、私たち哺乳類は小さなネズミほどのサイズしかなく、地上の片隅で細々と生きるマイノリティな存在でした。しかし時は過ぎ、恐竜が絶滅してから6600万年経った現在、地球を見渡してみるとあらゆる場所に哺乳類は存在し、生物界のいわゆる勝ち組となりました。

 何故なのでしょうか?
 この生物界最大の繁栄に成功したカギは、メスの体内で子を発育させる胎盤とそれを作る子宮を持ったことです(有胎盤類ゆうたいばんるい)。
 それまで大繁栄していた恐竜や爬虫類はちゅうるいは、子を卵という形で体外に産み落とし、成長に伴う世話はほとんどしません。その代わり数多くの卵を産み生き残りに挑んだわけです。
 これは魚類や鳥類も同じで、哺乳類以外の脊椎動物せきついどうぶつは「卵」の形で次世代を産む「卵生」という戦略に落ち着きました。
 一方の哺乳類は、マイノリティ時代から自分の体内に形成される胎盤で、粛々と子どもを発育させてきました。そのシステム上、一度に産む子どもの数は、恐竜たちの卵作戦より圧倒的に減りましたが、外敵や天候などの外的要因で死亡するリスクは激減し、少ない数の子どもでも確実に育てる確率を上げることに成功しました。さらに、母親と共に子どもも移動することができるため、いつでも子どもの様子を確認することができますし、母親自身も子どもを発育させながら、自らの生活も営むことが可能となりました。他の生物では育児の間、長期間絶食したり、1つの場所にとどまり続けなければならないこともあり、母親は餓死寸前または子どもの成長を見届ける前に死んでしまうこともあるので、母親が子どもを育てながら自らの生活も営めるのは画期的なことなのです。
 もちろん当時は、卵作戦と胎盤作戦どちらに軍配が上がるのか? 誰にもわかりませんでしたし、環境変動や不測の事態が起こることもあります。
 しかし、冒頭で紹介したように、現在の地球を見渡してみると、あらゆるところに哺乳類は存在し、圧倒的なニッチ(生態的地位)を獲得しました。
 つまり、現時点ではとりあえず胎盤作戦に軍配が上がったことになります。だからといってそれが正解であったとか王道であったということではなく、長い進化の過程では有胎盤類がたまたま上手く生き抜くことに適応し成功してきた、というだけです。

 胎盤を形成する子宮しきゅうは、よくいわれるのは洋なしを逆さまにしたような形の袋状の臓器で、女性特有であり繁殖活動には要の臓器となり、妊娠時は子どものベッドのような役割を担うところです。基本構造は、左右1対の子宮角しきゅうかく、それに続く子宮体しきゅうたい子宮頚しきゅうけいで構成され、ちつに移行します。私たち人間の間では、子宮癌しきゅうがんとか子宮筋腫しきゅうきんしゅなど疾病名として有名ですね。哺乳類全体で捉えると、その構造にはいくつかの種類があり、 1. 単一子宮たんいつしきゅう霊長類れいちょうるい翼手類よくしゅるい)、2. 双角子宮そうかくしきゅう有蹄類ゆうているい、食肉類、小型反芻類こがたはんすうるい鰭脚類ききゃくるい)、3. 両分子宮りょうぶんしきゅう鯨類げいるい大型反芻類おおがたはんすうるい)、4. 重複子宮ちょうふくしきゅう齧歯類げっしるい、ウサギ、アリクイ)、5. 重複子宮で重複膣をもつ(有袋類)の5つに分けられます。
 カンガルーなど、主にオーストラリアに生息する有袋類も哺乳類に属しますが、子宮内に子どもを成長させる機能をもつ胎盤は形成できないので、我々のような有胎盤類には含まれません。

図1. 五種類の子宮 イラスト:さはら そのこ
図1. 五種類の子宮 イラスト:さはら そのこ

 ここからは少し専門的になりますが付いてきてください!
 単一子宮は子宮角と子宮体の区別がないので、子どもが成長する場所は一カ所だけです。我々ヒトの子宮はこれに属します。一度の出産で基本的に1頭の子どもを産む動物に多いですが、、双子はもとより、五つ子が生まれることもあります。
 双角子宮とは、字の如く左右1対の子宮角をもち、子宮体と子宮頚もあります。
 例外はありますが、双角子宮は一度に多くの子どもを妊娠する動物に多くみられます。それは一度に多数の子どもが成長するには、子宮に広く長い面積が必要となるからです。また一産一子が基本のウマや鰭脚類でも、比較的大きな子どもを出産するため、こちらも広い面積の子宮が必要となります。分かりやすい例としては食肉類に分類されるイヌは、その大きさや種類により変わりますが、一度に16頭もの子どもを妊娠することができます。
 ここでふと疑問が湧きます。
 枝分かれした子宮角で同時に16個もの受精卵同士が示し合わせたかのように綺麗に均等に配置され同時に着床ちゃくしょうし成長するなんて、神の御業か?ともいえることですよね。
「おまえちょっと寄りすぎだから、もう少しあっち行ってよ」とか「ああ、私だけ離れちゃった…。栄養くるかなあ」なんてやりとりが受精卵同士であるとかないとか…。
 まあ、ある訳はないのですが、この等間隔に受精卵が着床する現象は「スペーシング(間隔どり)」と呼ばれます。
 受精卵同士が一種の化学物質を出しながら、お互いの距離感を保つよう生理学的にプログラムされており、哺乳類の生き残り作戦の1つといえます。

図2. スペーシング イラスト:さはら そのこ
図2. スペーシング イラスト:さはら そのこ