あちちちちっ、となるほどぐさりと刺さる結婚小説 【BOOKレビュー】凪良ゆう『多類婚姻譚』

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多類婚姻譚

多類婚姻譚

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 今回は、結婚についての物語です。結婚小説は私のなかでは恋愛小説のフォルダに入っているのだ。あ、でも、結婚と恋愛がセットだと思っているのではない。なんというか、横並びの列にいる、みたいな感じ。
 恋愛の先に結婚がなくてもあっても、それは当事者の選択だって思うんですよ。恋愛は恋愛、結婚は結婚、とそれぞれ別ものなので。恋愛したら結婚しなければいけないわけでも、結婚が前提でなければ恋愛しちゃいけないわけでも、でない。ただ、恋愛も結婚も、一対一の関係であることが基本。まぁ、複数同時恋愛(双方の合意があれば、だけど)はあるかもですが、複数同時婚姻は犯罪なので。
 凪良ゆうさんといえば、『汝、星のごとく』という超絶切ない恋愛小説が代名詞のようになっていますが、『多類婚姻譚』は、その凪良さんの新刊で、タイトルからもわかるように、婚姻にまつわる連作短編集。同性愛カップルがいて、離婚した女性がいて、結婚目前のカップルがいて、不倫カップルがいる。どの話にも、ぐさりと刺さるものがあって、あちちちちっ、となる。
 なかでも、付き合っているハイスペック彼氏と結婚するために、涙ぐましくなるほどの自制と努力を重ねている派遣社員の花織を主人公にした「Beautiful Dreamer」の破壊力たるや。九州出身の花織にとって、東京ジモティであり、派遣先である大手の食品会社の宣伝部に勤める恵斗は、花織にとっては、いわば、高嶺の花。そのことを知っているからこそ、花織はなんとしてでも恵斗と結婚したい。料理上手アピールも、聞き分けの良い彼女アピールも、全ては恵斗にプロポーズしてもらうためだ。(恵斗のために)常に可愛く、優しく、丁寧な暮らしを意識している、それが花織だ。
 でもですね、それ、周囲にはバレバレなんですわ。バレバレな分可愛いな、と還暦過ぎの私は思いますが、花織と同年代だったら、多分disってたと思う。もちろん、恵斗にもバレバレだ。そして、久しぶりのデートだというのに、合流することになってしまった、恵斗の大学時代の友人カップルにも。
 花織が先に帰った後で、そのカップルの男・大地が恵斗に向かって「初めて会った自分たちにまで全力で気に入られようとしてて、痛々しくて見てられなかった」「ああいう子とつきあうなら、ちゃんと結婚するか早めにリリースするか決めるのが誠意だ」と、恵斗、怒られたんですよ。まぁ、聞き出したのは花織で、それは別れの席でのことなんですけどね。
 この大地、そして彼の婚約者である加奈も恵斗も、そこそこ太い実家東京勢、なんですよ。彼らの嫌らしさってば、もう!(彼ら彼女らの勢の鼻持ちならない感じは、辻村深月さん『傲慢と善良』でも描かれてます。お勧め!)。嫌らしさ、さらに倍! なのは、彼らは自分らが恵まれていることに自覚的であること。うぐぅ。
 だから、花織は恵斗と別れて大正解だと思うのだけど、きっと花織はまた次の恵斗を探してしまうんだろうな。夢は見続けてこそ夢、だしね。

結婚のためなら死んでもいい

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 さて、結婚をテーマにした作品で、新潮文庫から選んだのは、南綾子さん『結婚のためなら死んでもいい』。もう、タイトルからしてかっ飛ばしてる。
 これ、作者である南さんの私小説というか実録小説というか、赤裸々小説というか、要するに、めちゃくちゃ本音で書かれていて、切ないのに笑えて、笑えるんだけど切ない、という一冊。
 目の前に55歳になった自分自身が突如あらわれて、そこから婚活に血道をあげた10年間が描かれている。個人的には、ところどころにぶっ込まれている野球ネタに吹き出したんですが、それ以上に、マッチングアプリの実例が爆笑もの。相手から朝7時過ぎに届いたメッセージ「あやこさんって、Tバックとかはきますか?」に、なぜ? と返信したら、
「Tバックってはいていると食い込むのかどうか気になって」と。脳みそ中学生か!
「条件反射的に『死ね』と返信しそうになったが、ぐっとこらえた」「代わりに『いっぺん死んでカナブンにでも生まれ変わって毎日樹液でも吸ってろ』」と返信&即ブロック。
 キレっキレすぎて、一瞬相手が気の毒になりかけたけど、いやいや、失礼なのはカナブン男だしな。
 とまぁ、これは一例ですが、こんな感じで、相手にはもちろんだけど、自分自身にも南さんは容赦ないところが、南さんの南さんたる所以。なんというか、何事においても客観性が担保されているのだ。。けれど、本書の中盤以降、弟さんを喪ってから、南さんのトーンがちょっと変化する(弟さんとの回想シーンは、きりきりと胸を締め付けられる。)。そこから、ラスト、南さんが出した結論というか決意は、ぜひ本書で読んでください。