VR浮遊館の謎

VR浮遊館の謎

  • ネット書店で購入する

 光同士を線で繋ぐ―そう、星座だ。
 君はすべての生物が星座のように見えているんだ。
 子供がデタラメな星を繋げて新しい星座を考案するように、君も自分だけの星座を作りたいと思った。
 でもそうすれば他人を傷付けてしまう。
 だからずっと我慢してきた、君は優しいからね。
 だけどもう我慢の限界だ。
 いいよ、遊べばいい。
 子供は遊ぶのが仕事だ。
 君は早速新しいおもちゃに取りかかった。
 転がった相手の懐中電灯を使って、地面の星座を照らし出す。
 今は何の変哲もない、そこら辺をよく歩いている普通の星座。
 こいつを君好みに改造していこう。
 パキリ、ポキリ、ベキン。
 ここを曲げたら面白いんじゃないか…こっちの骨はどうだ…うん思った通りだ…前から思ってたけど人間はこっちの形の方が美しいよ…この星座の名前はそうだな…「ねじ座」に決定!
 楽しい楽しい時間は、しかし長くは続かなかった。
 おや、どうしたというのだろう。
 光が急速に弱くなっていく。
 ねじ座が消えていく。
 ―命の輝きが消えたんだ。
 首の骨が折れてもしばらくは生きていた少年がついに息絶えたんだ。
 思い出せ、おばあちゃんの葬式を。
 棺桶に納まった安らかな死体は、何の光も放っていなかっただろう。
 君に光を見せてくれるのは、そう、生き物だけなんだ。
 さあ、もう行こう。
 いつまでも物欲しげに眺めてたってよみがえりはしないさ。
 そろそろ戻らないと怪しまれるぞ。
 君は名残惜しそうにおもちゃを手放すと、星座の群れに紛れ込んだ。
 誰も君のことなど見ちゃいなかった。
 幸か不幸かね。

 宿舎に戻り消灯時間になってからも、君は興奮で寝付けなかった。
 やがて一階が騒がしくなった。
 大人たちが何か大声で話しながらドタバタと歩き回っている。
 どうやら死体が発見されたらしい。
 らしいというのは、結局旅行中は「○○君が事故に遭いました」という情報しか児童たちには流れてこなかったからだ。
 死体を見れば転落死などではないのは明白だから、子供たちにショックを与えないための配慮だろう。
 警察がやってきて大々的に捜査が始まったが、とうとう君が疑われることはなかった。
 そりゃそうだろう、小学生の力で人体をあそこまで破壊できるなんて普通の人間なら思わない。
 むしろ教師や宿泊施設の人間に疑いが向いていたようだ。
 さりとて別の人間が冤罪で逮捕されることもなく、君の初めての事件は無事迷宮入りした。

 でも、いつまでもこんなことを続けていたら、いずれは捕まってしまう。
 普段は野良猫辺りでしのいで、どうしても我慢ができなくなった時に、無関係の人間を闇討ちするくらいに留めておくべきだ。
 それから、もう一つ反省点。
 いきなり首の骨を折るのもやめた方がいい。
 すぐ死んで光が消えてしまうし、何より星座の形が限定されて面白くないからね。
 さあ、ルールを守って楽しく遊ぼう。

 数年に一度、君は夜の街に繰り出し、素敵な星座を見つけたら後をつけ、人気のない場所で後ろから体当たりする。
 星の配列を崩して動けなくする。
 最初は難しかったけど、だんだん上達していったなあ。
 その後は丸めた布を口に突っ込んで声を封じて…。
 そこまでしてようやく遊べるんだ。
 面倒だけど仕方ない。楽しい遊びこそ準備に時間がかかるってもんさ。
 パキリ、ポキリ、ベキン。
 パキリ、ポキリ、ベキン。
 …どこからともなく声が聞こえる。
 まずい、目撃されたか?
 何だ、被害者の呻き声か。
 びっくりしたじゃないか。
 でもまあ無理もないか。
 生きたまま骨を折られるのは痛いだろう、苦しいだろう。
 いや、君が気にすることじゃあないさ。
 君は相手を苦しめたいわけじゃない。
 ただ遊びたいだけなんだから。
 遊びってのは、えてして残酷なものなんだ。
 ごめんなさい。
 そして、ありがとう。
 さあ、完成だ。
 今回の星座は…いそぎんちゃく座だな、こりゃ。
 いっぱい遊んだ後はお片付けをしなきゃね。
 苦しんでいる人を放っておくのは可哀想だし、君のことを証言されたら困る。
 君は焚き火の処理をするように星の光を消した。