第二章 八人の魔法使い【4】
更新
前回のあらすじ
「今回のゲームの性質上、協力プレイじゃなくて対戦プレイで行きたいんです。私たち今回はライバルですね」「ああ、負けないからな」「こっちこそ負けませんよ」その時、扉が開く音がした。

*
行く手にある両開きの扉が片方だけ開き、僕たちと同じ黒いローブを着た男が顔を覗かせた。
短髪を整髪料で立たせ、三十代後半から五十代前半のどの年齢を言われても納得できるような丸顔に太い赤縁眼鏡をかけたその男は僕たちに気付くと、人慣れしていそうな柔和な笑みを浮かべた。
「あれー、もしかして君たちは探偵の相以ちゃんに、その助手の合尾くんじゃないか?」
相以だけでなく、僕のことまで知っているなんて。何者だ?
「私のデータベースにもありませんね。ゲーム内はオフラインのようなので画像検索することもできませんし」
相以にも心当たりがないということは、会ったことがあるのに忘れているというわけではなさそうだ。
僕は壁に手を突いて、その摩擦で止まると尋ねた。
「はい、そうですが、あのー……」
「僕は赤井満月。一応SF作家をやらせてもらってます」
男は戸枠に掴まりながら頭だけ下げる。
赤井満月。聞いたことがある。畑違いの僕でも知っているのだから、多分一定以上には売れている作家のはずだ。
「あ、お名前だけは……。すみません、SFには詳しくなくて。SFミステリなら少しは分かるんですけど」
一冊も読んでない焦りから余計なことを口走ってしまった。案の定、突っ込まれる。
「SFミステリか、いいね。SFとミステリは既知の法則と発想の飛躍から奇想を生み出すという点で共通しているからね。どんな作品が好きなの?」
「えっと、最近読んだ中では『ジャック・グラス伝』の第一の密室トリックなんか面白かったですけど……」
どんどんドツボに嵌まっている気がする。詳しくないジャンルについて聞かれて、たまたま知っているだけの作品を挙げて、それを知らない相手に困惑されるか、逆に知っている相手に深掘りされて困るパターン。
赤井は破顔する。
「おお、あれか! なかなかエキセントリックな作品だね。ちょっとメフィスト賞的なところもあって」
より悪い、後者の展開だ。
「君はアダム・ロバーツのファンなのかな」
「いや、あの……すみません、本当に最近読んだだけで、体系的には語れないんです」
「いや、謝ることなんかないよ。何となく興味を持った本を体系的になんて考えずにつまみ食いする。読書なんてそれでいいんだ」
良かった。いい人そうだ。
安心した僕は水を向けてみる。
「赤井さんはどんな作家が好きなんですか」
「僕? そうね、いろいろあるけど、一番はやっぱりJ・P・ホーガンかな」
「ホーガンと言うと確か『星を継ぐもの』……」
昔読んだきりで内容はあまり覚えていない。知っている固有名詞を羅列するだけのオタクトーク。