第二章 相棒セパレーション【2】
街角ハルシネーション―探偵AIのリアル・ディープラーニング―
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前回のあらすじ
「合尾くん、おハロー」聞き覚えのある声。僕は振り返ろうとした。次の瞬間、バチンと首を鞭で叩かれたような衝撃が走った。「輔さん、どうしたんですか、輔さん、輔さん、――さん、――」相以の声が遠ざかっていく。

*
横ではなく縦。
縦に寝ているという違和感。
椅子?
……そう、僕は椅子に寝ている。
最近忙しかったからな。パソコン作業をしながら椅子で眠ってしまったかな。ベッドに移動してちゃんと寝ないと。
明日の現地調査に響く――。
ん?
いやいや、待てよ。
もう春根市には出発したじゃないか。相以を連れて事務所を出た。確かにその記憶がある。
その後は?
駅へと続く通りを歩いていたんだ。そうしたら急に人通りが増えてきて……。
「おハロー」
この声だ。
僕は完全に覚醒した。
目の前でひらひらと白い手が踊っていた。
白黒のエプロン――いや、メイド服を着た女性の手。
前に会った時、彼女はメイド服ではなくパステルイエローのスーツを着ていた。
「橘ばなな……!」
AI犯人に寝返った初の国会議員は、きゃぴきゃぴした声で言った。
「やだー、前は橘さんって呼んでくれてたのに呼び捨てになってるー、こわーい」
不覚にも自分の心の醜さを指摘されたような気持ちになった。僕はそういうところがあったっけ?
だがすぐに思い直して言い返す。
「当たり前でしょ。相以と僕、それからゲームに参加してくれた人たち、みんなを危険な目に遭わせたじゃないですか。フォースのことも騙した。あれはフォースの晴れ舞台だったんだ。それをあんたらは――」
「まあまあ、積もる話は置いといて」
「全然積もってませんけど」
真夏の山荘のように。
「今日は別の用件があるの」
「別の用件?」
聞き返しながら、素早く視線を動かして状況を確認した。
洋館の応接間のような内装だが、どこか奇妙な雰囲気がある。やけに前後に長い直方体の空間なのだ。そして窓が一枚もなく、今が昼なのか夜なのかも分からない。天井がやや低いせいもあって圧迫感を覚える。
目の前の丸テーブルにはノートパソコンが置かれていた。本体からは電源ケーブルだけが伸びており、部屋の片隅のコンセントに刺さっている。電源は入っているが、初期画面のまま何も表示されていない。
僕自身は背もたれが高い、ふかふかした椅子に座らされていた。特に拘束などはされていない。服装も誘拐された時と同じ、フード付きパーカーにジーンズのままだ。
「そうだ、相以は!?」
僕は重要なことを思い出し、ポケットというポケットを探った。
ない。スマホがない。どこにもない。
「相以をどこにやったんです!?」
「それを今から説明するんですー。私じゃなくて以相ちゃんの口からね」
「以相……!」
橘が動いている以上、やはり以相が関与しているか。
「以相ちゃん、合尾くん起きましたよ」
橘はノートパソコンに声をかけると、僕の背後に立ち去った。僕は椅子から身を乗り出して彼女の行き先を確認しようとしたが、ノートパソコンの画面に動きがあったので視線を引き戻された。
画面の四隅から黒い粒が渦巻きながら中央に集まっていく。それは次第に人の形を成していき、最後には黒いゴシックドレスを着た少女のアバターとなった。
以相だ。


