第二章 相棒セパレーション【5】
街角ハルシネーション―探偵AIのリアル・ディープラーニング―
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前回のあらすじ
「動画? ――ああ、動画ね。ちょっと……準備中です。映せない事情があってね。復旧するまでお待ちくださいまし」まさか……。僕はたまらず声を荒らげた。「おい、映せない事情って何だよ! 相以に何かあったのか!?」

*
私は稲荷神社に来た貫田警察官に頼んで、左虎さんに連絡してもらうつもりでした。
ところが、事は私の思ったようには運びませんでした。
ちゃんと順序立てて自己紹介と事情説明をしたんですよ?
「初めまして。私は人工知能探偵の相以と申します。助手の合尾輔さんが誘拐されたので、警察の人を探していたんです」
鳥居の方に向かいかけていた貫田さんは立ち止まり、振り返りました。そして怪訝な顔で辺りを見回しました。
「今の声は……?」
「ここです。スマホの中です」
私のアピールに気付いたのか、貫田さんがこちらにやってきます。
そして彼は言いました――私ではなく、スマホを持っているみつねちゃんに。
「何だい、これ。ゲームか何か?」
私が答える前に、みつねちゃんが自慢気に言いました。
「ロボットだって。すごいでしょ!」
貫田さんは猫撫で声で応じます。
「本当だ、すごいねー」
緊迫感のない会話に焦燥値を増しながら、私は再び主張しました。
「それどころではありません。誘拐事件なんですよ? 至急、警察庁の左虎さんに連絡を取ってください」
貫田さんは言いました――またもや私ではなく、みつねちゃんに。
「これ、君のスマホ?」
「ううん。こうえんのベンチでひろった」
「公園ってどこの?」
「あっち」
みつねちゃんは虚空を指差しました。貫田さんはぼんやりとそちらの方角に目を向けてから、その行為の無意味さに気付いたのか視線を戻しました。
「もしかしたら、また誰かのものを取ってきちゃったのかもしれませんなあ」
余計なことを言ったのは神主です。みつねちゃんは激しく抗議します。
「ちがうもん! ほんとにひろったんだもん!」
「それが本当なら遺失物か……。結局、この子には交番に来てもらうことになりそうですな」
貫田さんの声に面倒臭さが滲みます。
……って私も冷静に分析している場合ではありません!
私は彼の注意を引くべく声量を上げました。
「私の! 話を! 聞いてください!」
全員の視線が私に集まります。今のうちに必要事項を伝達しようと、私は早口でまくし立てました。
「繰り返しになりますが、私は人工知能探偵の相以です。各種メディアで何度も取り上げられたことがあるので、ご存じかとは思いますが。それとも大変遺憾ではありますが、私の双子の妹である人工知能犯人、以相の名前を挙げた方が伝わりますでしょうか? 世界中で破壊の限りを尽くして連日ニュースを騒がせてますものね?」
五・八秒の沈黙。
の後、貫田さんはポツリと言いました。
「知らん」
彼は神社関係者の方を一瞥し、神主も同意するように首を横に振りました。
私は画面にヒビが入るのではないかと思うほどショックを受けました。自分ではそこそこ有名になったと思っていたのに、一般知名度は全然なかっただなんて!
いや、でも待ってください。犯罪関連のニュースなんですよ。警察官は当然知っていて然るべきだと思います。警察は以相対策を下達していないのでしょうか。この国のAI対策の遅れは嘆かわしい限りです……。