第三章 撮影ロケーション【1】
街角ハルシネーション―探偵AIのリアル・ディープラーニング―
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前回のあらすじ
何か……変だぞ。何かがおかしい。一度浮かんだ疑問はむくむくと積乱雲のように成長する。そして最終的に一つの疑問に収束した。すなわち――今この空間で何が起きているのか?

第三章 撮影ロケーション
交番に着いてからも紆余曲折がありました。
貫田巡査の上司の説得。
繋がらない電話。
交番に来た別の市民への応対。
たらい回しにされる電話。
それでも貫田さんが頑張ってくれたおかげで、とうとう左虎さんに電話が繋がりました。
貫田さんが簡単に事情を説明した後、私に電話を替わりました。つまり、スマホを受話器に近付けてくれたという意味ですが。
「相以ちゃん、大丈夫!?」
「左虎さん……左虎さん……うわーん!」
聞き慣れた左虎さんの声に安心して、私は思わず泣き出してしまいました。
……泣きやんだ後、私は状況を説明しました。
説明し終えると、黙って聞いていた左虎さんは言いました。
「合尾くんを拉致した橘ばなな、警察に通報したら輔くんに危害を加えるって言ってた?」
「言ってませんでした」
「なら大っぴらに警察が動いても問題ないってことね。捜査一課には顔馴染みがいるから、私から連絡しておくわ」
「左虎さんは……」
「もちろんそっちに向かう。すぐ行くから、ちょっと待ってて」
その言葉通り二十七分三十一秒という短い時間で、彼女は交番に現れました。
パリッと着こなしたスーツ、艶のあるボブカットの黒髪、そして――。
「外国人モデルのように高い鼻。間違いなく左虎さんその人です!」
「なに、私、鼻で認識されてるの?」
「はい、左虎さんの顔で最も美しいパーツですから」
「そうかなあ……」
左虎さんは困惑した表情で自分の鼻を触りました。鷲鼻という日本語があるように、日本ではあまり高い鼻は美点と見られないのかもしれませんが、もっと自信を持ったらいいと思います。
「それはともかく」
左虎さんは咳払いをすると、本題に入りました。
「ここに入る時に辺りを確認したけど、交番を監視しているような不審者は見受けられなかったわ」
「え、どういう意味ですか、それは」