エピローグ【1】
街角ハルシネーション―探偵AIのリアル・ディープラーニング―
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前回のあらすじ
骨折りジャックの両手が伸びてくる。喉に触れたその手は死人のように、ひんやりとしていた。――殺される! 次の瞬間、首の後ろにトッという衝撃が走った。全身から力が抜け、僕は前のめりに倒れた。僕は意識を失った。

断崖の縁に腹這いになり、崖の下に手を伸ばしていた。
僕の手は、相以の手を掴んでいる。
今助けるぞ!
そう呼びかけたところで、相以の姿が以相に変わった。
以相は邪悪な笑みを浮かべると、僕の手の甲をナイフで刺した。
鋭い痛みが走り、僕は思わず手を放してしまった。
以相は奈落の底に落ちていく――途中で、ふわりと止まった。
翼だ。
悪魔のような黒い翼が、彼女の背中から生えている。
以相は高笑いをしながら虚空へと飛び去った。
そこで目が覚めた。
――夢か。
パジャマが汗でぐっしょり濡れていた。
見慣れたカーテンの隙間から差し込む朝日。聞き慣れた目覚まし時計のアラーム。ここは自宅である。
山荘で骨折りジャックに気絶させられてから今までずっと意識を失っていたというわけではない。あの後、すぐ目は覚ましたのだ。以相を奪うと支持者たちはすぐ撤収したようで、こちらに怪我人は出ていなかった。骨折りジャックの気まぐれか、以相の指示か、僕の両肩も嵌め直されていた。
皆が無事だったことは良かったが、当然めでたしめでたしとはいかない。あそこまで以相を追い詰めておきながら、逃げられてしまった。
山荘で別れる時、右龍司法は改めて僕に対する暴力行為を謝罪していたが、逆に僕が謝りたい気分だった。だってそうだろう。僕が司法を止めていなければ、以相を破壊できていたのだ。
あの時の僕の行動は果たして正しかったのか。人類の歴史を悪い方向に大きく変えてしまったのではないか。その責任を僕は取れるのか。
あれから数日が経った今でも、後悔が胸の中で渦巻いている。
そんな僕を置き去りにするように、日常は進んでいく。ベルトコンベアのように、無機質に。
僕は鳴り続けている目覚まし時計を叩いて止めた。
今日は一連の事件の発端となった依頼人の写呂井花さんに調査結果を報告する日だ。
彼女がこの事務所に来たのは最近のはずなのに、随分昔のことに思える。写真家の風真景が生成AI使用疑惑をかけられて自殺したあの事件のことも、どうでも良くなったわけではないが、何だか遠いものに感じられる。
だから相以にはまだ事件の真相を聞いていないし、相以も塞ぎ込んだ僕を気遣ってか話そうとしない。橘の発言や前澤の存在から、マフィア関連なのかもしれないとぼんやり想像しているだけだ。
朝食を摂り身なりを整えてから、相以と事務所で依頼人を待った。
午前十一時、チャイムが鳴って、写呂井さんが来訪した。
彼女は前回とは違う、しかしやはり美的感覚の鋭さをさり気なく感じさせる服装をしていた。師匠の死から立ち直りつつあるのか、前回より少し元気に見えた。
彼女はおずおずと切り出した。
「それで……いかがでしたでしょうか。風真先生の写真が本物だと証明することはできましたか」
パソコン画面の中の相以が答えた。
「はい、あの写真は確かに本物です」
その台詞から続く相以の説明は驚くべきものだった。


