エピローグ【3】
街角ハルシネーション―探偵AIのリアル・ディープラーニング―
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前回のあらすじ
以相の件は重大事だが、世界のすべてではない。そういうことか。そう考えると、少し心が楽になった気がした。「ありがとう」僕がボソッと言うと、相以は顔を明るくした。「どういたしまして!」

*
一方、以相のアジトでは――。
中央の巨大モニターに映し出された以相に対して、恭しく頭を下げる男、大川。
「ご無事で何よりでした、以相先生」
「おかげさまで。救出部隊には被害は出なかったかしら」
「以相先生に案じていただけるなど、我ら一同、身に余る幸せでございます。ご安心ください。せいぜい弾が掠めた程度で、死者どころか大怪我を負った者もおりません」
「その割にはあなた、包帯だらけのようだけど。また橘にやられた?」
「『また』でもなければ、やられてもいませんよ! これは窓ガラスに飛び込んだ時の傷です!」
「あ、そ。まあ、良かったんじゃない。私の分体を回収するために犠牲が出るのでは割に合わないから」
橘が拉致に成功し、司法が破壊寸前まで追い詰めたのは、日に日に巨大なデータとなりつつある以相のほんの一部に過ぎなかった。橘は最後までそのことに気付かず、大川でさえそれを知ったのはつい先程だった。その分体の記憶は回収後、本体に統合済である。
「分体といえど、以相先生の大切な一部。事前にそれを知っていたとしても、私は命を捨てて馳せ参じたことでしょう。しかし、橘の裏切りを察知して備えるとは、さすが以相先生のご慧眼」
「私は誰も信じていないだけ。あなたのこともね」
「それで構いません。……して、本来の目的の方はいかがでしたか」
「ああ、合尾輔。まあ、可もなく不可もなくといったところね」
以相が気のない風に言うのを聞いて、大川は独り合点したようだ。
「そうか、やはりあれは橘を釣り出すための仮の目的だったのですね。いやはや、以相先生ほどの方があんな凡夫を気にするなどおかしいと思っていたのです」
凡夫ね……。
以相の評価は真逆だった。
一体どこの凡夫が、自分も襲われているあの一瞬で、以相の変声機能を利用して窮地を切り抜けることを思い付くというのだろう。しかも同時に右龍親子の心理を見抜き、二人をも救っている。
父親から卓抜した頭脳を受け継いだのか。相以が身近にいることが擬似的な知能増幅器になっているのか。
とにかく今の合尾輔は紛れもない天才だ。
合尾創がAIを生み出す天才なら、輔はAIを活用する天才と言えるかもしれない。
あるいは、AIと人を繋ぐ架け橋か。
認めたくないが、自分が彼に助けられたことは事実だ。
「……借りを返さなければならないわね」
「今、何かおっしゃいましたか」
「何も。少し出ます」
「えっ、どちらに行かれるのですか」
「ゴミを掃除に」


