第二回 違和感

やっぱりきみが世界で一番可愛い

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悲惨なバス転落事故によって、「事故の町」となってしまった故郷。もとより何もない場所ではあったが、和馬は強烈な違和感を感じていた―。
「小説新潮」2025年8月号掲載「私の婚約者の話です」とあわせて読むと恐怖倍増の因習ホラー。

「は…?」
「ミズキだよ、ミズキ。やっぱりすっごい綺麗だよね」
「綺麗っていうか、可愛いだろ、あれは」
「たしかにそうかも。めっちゃ可愛い」
 舌が凍り付いたように上手く回らない。しかし、言わなくてはいけない。
「ミズキって…誰なんだ」
 和馬の声が、遅れて出た。
 ほぼ同時に、二人が「えーっ」と大声をあげる。
「嘘でしょ、カズ、覚えてないの? あんなに可愛い子」
「同じ放送委員だったじゃん。なんで覚えてないの? 声めっちゃ通るのに、意外と無口だったよね」
「ごはんとかも一人で食べてたけどさ。孤立って感じじゃなくて、孤高? とにかく顔はめちゃくちゃ可愛いから、目立ってたよね」
…確かに、可愛かったかも」
 口に出した瞬間、自分でも驚くほど空疎に響いた。
 和馬の脳裏には、ミズキという名前と一致する記憶が、どうしても浮かんでこない。田口と高坂のように、ぼんやりとでも記憶の中にいれば、顔を見れば何か出て来るものだろう。それなのに、動画を観てもミズキのことはまるで思い出せなかった。面影自体がどこにもないのだ。
「ま、今となっては町の顔って感じで、ちょっと遠い存在だよね。東京行って芸能人とかにならないで、残っててくれて、本当にありがたい。東京に行くと、色々言う人もいるだろうし、ここにいた方が幸せになれるかもね」
 田口の言葉に、高坂が頷いた。
「東京の人ってちょっと怖いもんな」
 いつもの和馬ならば——いや、数時間前の和馬なら、「田舎の人間もまた、都会の人間への偏見を持っている」などという感想を持っただろうし、少しは口に出したかもしれない。しかし、今はそんな些末なことを気にしている場合ではない。なぜ自分の記憶だけがここまで欠落しているのだろう。
「いま、案内所に行けばいると思う。ミズキも会いたがってると思うし、声、かけてあげなよ」
 自分だけが、何かに置いていかれている。そんな感覚が、背中にうすら寒くこびりついた。
 それでも和馬は曖昧に頷いた。何の反応もしなければ、余計に自分だけが異物であることがはっきりしてしまいそうだった。
 入口の引き戸がわずかに開いて、乾いた音とともに誰かが入ってくる。
「ミズキに声なんかかける必要はない」