第三回 「あとで会いに行くね」

やっぱりきみが世界で一番可愛い

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悲惨なバス転落事故によって、「事故の町」となってしまった故郷。もとより何もない場所ではあったが、和馬は強烈な違和感を感じていた―。
「小説新潮」2025年8月号掲載「私の婚約者の話です」とあわせて読むと恐怖倍増の因習ホラー。

 観光案内所には、行くしかなかった。本当は行かない方がいいのかもしれない。何も考えず、そのまま東京に帰れば、またいつもの日常が続いていく。しかし、どうにも腹の底に残ったものが気持ち悪くて堪らない。それが何かを確かめたくて、和馬は自然と坂を下っていた。
 入口のガラス越しに、ミズキの姿が見えた。強烈な既視感がある。サムタロが動画内で観光案内所を訪れたときと同じように、棚に並べたパンフレットを揃え直している。
 ミズキが顔をあげる。
 目が合う。
 逃げ出したい気持ちを、知りたい、という気持ちが塗り潰した。
 ミズキが自動ドアを通って出てきた。制服姿のまま、驚くほど自然な足取りで。
「カズちゃん、カズちゃんだよねっ」
 カズちゃん。
 ミズキの声は弾んでいて、その口ぶりはまるで、本当の幼馴染にでも再会したようだった。
「ねえ、いつ戻ってきたの? どうして連絡くれなかったの? 何か用事があったの?」
 ミズキは大きな目をきらきらと輝かせて、矢継ぎ早に質問を投げかけて来る。
「ええと、本当に、ついさっき、たまたま、帰ってきた感じかな…」
「たまたま、ね。うん、そうだと思った」
 ミズキは昔を懐かしむように目を細めている。しかし、口角が少し上がっていて、まるでこちらの中身を見透かしているような余裕を感じさせられた。和馬には、懐かしむ昔がないことを気付いているような気もする。
「カズちゃん」
 名前を呼ばれると、体が震える。ミズキがそれに気付いていないことを心の中で祈る。
「びっくりしたよ。カズちゃん、中学のとき、ちょっと冷たかったから、二度と会いに来てくれないかと思った」
「そうだったっけ?」
「うん。でも、ずっと覚えてたんだよ。待ってた、カズちゃんのこと。ちょっと怖かったけど、好きだったから」
 胸の奥が、さらに冷たい水を流し込まれたようにざわついた。記憶にない。動画を観るまで名前すら知らなかった相手に、そんなふうに語られる覚えはない。
「ごめんね、気持ち悪いよね、そんなこと言われても」
 和馬は否定も肯定もせず、話をそらすように、
「案内所で働いてるんだ?」
「うん、ほとんどボランティアだけど。町のこと、いろんな人に知ってほしくて。事故のこともね」
ミズキは一瞬だけ、声のトーンを落とした。
「事故の日、バスのすぐ近くにいたんだ。でも、そのこと誰にも言えなかった」