第五回 ⑤
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前回のあらすじ
阿賀野鈴、バツイチ40歳、出版社勤務の編集者。装幀デザイナーの父と実家の〈デザインAGANO〉で打ち合わせした後、従弟でグラフィック・デザイナーの陸と二人きりになった。陸は私の上司で編集長の越場さんと仕事をしたことがあるので、彼に、彼の息子さんと私の娘も一緒に4人で食事に誘われたと伝えたら、ちょっと驚かれて、「鈴は、越場さんのことを、男として好きだったんだね」と言われてしまった。

「それは」
そんなふうにストレートな表現をされると、ちょっと困るけれども。
「昔からそうよ」
嫌いではない。小さい頃には、優しくておもしろいおじさんだって思っていた。少し大きくなった頃には格好良い大人の人だなって思った。私が編集という職業を選んだのは、もちろん読書好きで、そして装幀をしているお父さんの仕事を見てきたというのもあるけれども、越場さんという編集者が身近にいたからかもしれないとも思ってる。
だから、好きか嫌いかの選択肢なら、出会ったときから好きな人だった。
「陸だって、好きでしょ」
「ボクの好みは可愛くて丸っこいだから越場さんはタイプじゃないけれど、良い男だとは思うよ。父さんだって信頼する編集者の一人だよね」
そう言っていたね。編集者も人間。いろんなタイプの人がいる。中には、向いてないから作家のためにも読者のためにも辞めてくれと願うような人だっているって。
「越場さんが、どうして離婚ということになったのかは鈴は聞いてるの?」
「詳しくは、聞いていないけれど」
単純に、自分が、越場さんが悪いんだと言っていた。およそ結婚生活には向いていない男だったのだと。
「父さんと聞いたんだ。いつだったかな、もう何年も前だけどデジタルカンファレンスに一緒に行って、帰りに関係者と飲みに行ってさ。越場さんとか他の編集者もたくさんいて」
そんなことあったんだ。
「よくある話だけれど、越場さんは、若い頃は家庭を顧みない男だったんだよって本人が言ってた。仕事仕事で家のことも子育ても奥さんに任せっきり。自分が稼ぐことが苦労させないことだって思っていた。それで、奥さんはメンタル的にまいってしまって、別れ話になった」
うん、私が聞いてるのも大体そんな感じだ。仕事が大好きだった。素晴らしい本を世に送り出すことが自分の幸せで、それしか考えていなかった。もうひとつの幸せに目を向けていなかった。
「まぁそんな男は、前はざらにいたんだと思うんだけどね。働く男はそういう部分が多かれ少なかれあったんだよきっと。うちの親は違ったみたいだけれど」
「違うね」


