第六回 ③
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前回のあらすじ
阿賀野陸、35歳 グラフィック・デザイナー。従妹の事故死した夫・晶くん、弟の響くんと両親が営む〈デリカテッセンMSHITA〉のデザインは、今後もボクが担当することになった。その打ち合わせの席で、長兄の翔くんが響くんに「お前に可愛い奥さんが来る可能性は、まず考えられないだろう」と聞いたんだ。ボクはなんとなく予感していたけど、響くんもゲイだということ。

「気を悪くしないでくださいね。うちの親は、悪い人じゃないんだけどそういうのに免疫ないし、かなり古い人間なんで」
「わかってます」
真下夫妻はいい人たちだ。
「蘭さんに初めて陸さんのことを聞かされたとき、固まってましたからねうちの親。俺や晶がきちんと説明して納得はしていたし、ようやく慣れたみたいですけどね」
それも、わかってた。最初のうちはお母さんなんてボクと話すときに声のトーンが上がっていた。お父さんは強ばった笑顔になっていた。
ただ、ボクは親戚になったとはいえ、赤の他人だから二人は慣れることができるんだ。できたんだ。
それが、自分の息子がそうだったとなると。
響くんが、小さく頷く。
「わかんないかな、と思っていたんですけど、陸さんも気づいていましたか?」
「確信はなかったですけど、何となく」
それは、ニュアンスみたいなもの。同性と接するときの態度と、異性に接するときの態度。多少違ってくるのはそれはもうあたりまえ。
それが、響くんにはボクと同じものを感じていた。
「ボクの親は、まぁ仕事柄もあってそういうものには理解ありましたからね。意外と広告業界って多かったりするので」
「そう聞きますね」
それでも、偏見や差別はある。そんなのに囚われない、気にしなくていい業界と家族に囲まれているからボクは普通に生きていけるけれど、響くんの場合はちょっと厳しいかもしれない。
確かに、そのときが来るまでは隠し通していった方がいいとは思う。
「だからさ、響。無理するなというか、晶が目指したものをお前は追いかけなくていいんだよ。お前のやり方で、店をこのままやっていけばいいんだ。あ、陸さんへの新規の仕事は減っちゃうかもだけど」
それは、大丈夫。アフターケアはきちんとします。
「それで、もしも俺に、この人となら一緒に店をやっていけるかもしれないって人が現れたら、改めて俺は宣言するよ。響と一緒にこの三人で店を継ぐから、親父たちは心配するなって。いつ隠居してもいいぞってさ」
「現れなかったら?」
響くんが言う。
「淋しいことを言うな。今までは店のことを抜きにしていたけど、これからそういう人と出会えるように、捜すようにするんだよ」
笑った。
「そこに、蘭はいないんですね? 対象外になってしまっていると」
半分冗談で訊いてみたけど、翔さんはおどけたように顔を顰める。
「いや、蘭さんは本当にいい人ですけど無理ですね。晶は、俺の大事な弟ですから。晶の宝物は、俺にとっても大切にずっと見守っていくもので、自分の手にするものじゃないんですよ」
蘭が他の誰かの宝物になるその日まで、ってことだね。


