「そういうエピソードは著者のまったくの想像もあるだろうけど、ご本人の体験や見聞きしたもの、ニュースになっていた実際の出来事をモチーフにすることも多いかもしれない。編集者としての私の経験上の話だけどね。だから」
「世に家族のトラブルの種は尽きまじってことね。何があるか本当にわからない」
その通り、って鈴ちゃんが頷く。
「まぁ我が身にそういうことが降りかかるなんて思ってもいなかったんだけどさ」
「だよね」
私もそうだ。夫に先立たれるかもしれない、と想定して結婚したわけじゃない。将来起こり得るかも知れないトラブルを気にしながら自分の生きる道を決めるなんてことは、私はたぶんこれからも、ない。
「私の場合はすっきりさっぱりで、お願いだからもう二度と私の人生に係わらないで! だったけど、そういう思いは全然ないんでしょ蘭の中には。今、こうして真下家から離れても」
「ないかな」
そんな思いは全然ない。
「とても苦手な一〇〇メートル走を力一杯走り切った感じかな」
「よくやり切った私! って?」
「そう、小さくガッツポーズするような気持ち」
新しい道を選んで、困難なことを乗り越えてその道の入口まで辿り着いた。よし、ここからだ。ここからまた始まるんだって。
「結婚って、家族になるって、ものすごく大変というか、ものすごいことなんだよね」
「そうだね」
結婚したときには、する前にも、そんなことを考えもしなかった。
「私を含めて世の中のほとんどの人はそうなんだよ。結婚はおめでたい! どうぞ末永くお幸せに! ってなるけれども、末永く幸せに過ごしてそのまま皆に心から惜しまれてお亡くなりになる人ってその内に何割いるのかしら、って話よ」
「うん」
そんな統計を取っている人はいないだろうし、取れないだろうけど。
「そして私たち姉妹はその何割かには、今のところ入らなかったのよ。それぞれ違う理由で」
そういうこと。
「でも結婚のいいところは、やり直しが利くところでしょ」
結婚に失敗して離婚しても、夫に先立たれても。
もう結婚生活はこりごりって人もいるだろうけれど、結婚は何度だってできるし、結婚という形をとらなくたって、別の誰かと新しい人生を選んで一緒に歩いていくことは、別の道を歩き出すことは誰でもできるんだから。
(つづく)
※次回の更新は、10月17日(木)の予定です。