第八回 ③
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前回のあらすじ
阿賀野陸、35歳 グラフィック・デザイナー。装幀家の父・阿賀野達郎の代理で出席した出版社主催の文学賞受賞パーティで、文芸誌編集長の越場さんと会った。従姉の鈴から、上司の越場さんと互いの子供も一緒に食事をしたと聞いたけど、その後の話は何も聞いていない。だから、越場さん本人に直接確かめてみたいと思っていたんだ。

「それって、よくある〈再婚を考えている二人が、お互いの子供を紹介する〉っていうシチュエーションまんまですよね?」
あー、って首を少し前に倒して苦笑いする。
「周りにそう思われてもしょうがないな、と後から気づいたんだけどね。そんなことはまったく考えていなかったんだよ」
「ただ単に、鈴とやよいちゃんのためになるかな、っていう部下思いの気持ちから、的な解釈でいいですか?」
そうだな、そう、って繰り返した。
「たぶん、そんな気持ちだったんだよ。いや困ったな。そういう話をしたくて誘ったのかな」
「鈴がとても嬉しそうで。でも、そこから何も進んでいなさそうなので。姉思いの弟としてはちょっといろいろと確かめたくなっちゃって」
鈴とやよいちゃんのために。越場さんのその気持ちと同じように。
「四年ぐらい前でしたよね。越場さん、心筋梗塞で入院したの」
「あぁ」
レンゲでチャーハンを口に運びながら頷いた。
「びっくりして一体何のことかって先生に二度聞きしちゃったよ」
「ボクらもですよ」
父さんや母さんもそれを聞いて、びっくりしていた。越場さんが?! って。
「話してなかったよな? 参考までに、最初は胸焼けかと思ってさ」