第十回 ②
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前回のあらすじ
阿賀野蘭 28歳 アルバイト。今日は、元婚家が営む〈デリカテッセンMASHITA〉で買ってきた大量のお惣菜を家族皆で食べる〈お総菜の日〉。自宅に帰るという陸と話をしていたら、ほぼ同時に私たちのスマホの着信音が鳴った。姉の鈴ちゃんからだ。「今日の晩ご飯ね」。その先に続いた言葉は……。

*
え、それはどういうことなんだろうって。
いきなり、その日が来ちゃうの?
ちょっと興奮してしまった。鈴ちゃんからの電話で、越場さんと一緒に帰るから越場さんの分のお味噌汁もよろしくねって。
もちろん、いいですよ。お出汁の量を増やしてお味噌をちょっと多くすればいいだけなんだから。お豆腐が若干少なくなってしまうかもしれないけれど、いつもより少なくたって誰も文句を言わない。そこまでお豆腐大好き人間はうちにはいない。
陸も電話に出ていて、それを切って。
「電話、誰から?」
「越場さんから」
「え、何て」
「そういう話をしたいので、すまないが今日は一緒にご飯を食べてくれないかって」
陸にも家にいてほしいってことね。
「じゃあ、そういうことだよね? 二人の、結婚の話を、越場さんが鈴さんを僕にくださいって言いに来るんだよね?」
お父さんもお母さんもまだワークスペースにいる。花ちゃんは打ち合わせに出て今日は直帰。
「私たちに、鈴ちゃんと越場さんから連絡が来たってことは、お父さんお母さんはまだ何にも知らないのかしら」
「そういうことになる、のかな? 向こうにも電話したんじゃないの?」
「いや」
ここにいればワークスぺースに家電でも、あるいは二人のスマホだろうと電話が入れば着信音は聞こえる。会話をしていれば、なんとなく聞こえる。私たちへの電話の前には何も入っていなかったし、今も入っていない。
ワークスペースからは、いつもMacから低く流れる音楽しか聞こえてこない。
え、鈴ちゃん、越場さん。
どうして肝心の二人に電話しないんでしょうか。まずはご飯の確認と家族全員を集めておけばそれでオッケーってこと?
「お父さん? お母さん?」
呼びながらワークスペースへ。二人が顔を上げて私を見る。
「なに?」
「どうした?」
「鈴ちゃんか、越場さんから今電話があった?」
二人で顔を見合わせてから。
「ないよ?」
「ないわね」