第十回 ⑤

ムーンリバー

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前回のあらすじ

阿賀野鈴 41歳 出版社勤務の編集者。編集長の越場さんと2人で私の家に帰ってきた。そして夕ご飯を食べながら皆に、私たちは共に生きていく決意をしたことを伝えた。娘のやよいは笑顔で結婚をみとめてくれたけど、転校はしたくないらしい。とは言え我が家に空き室はない。すると近所で1人暮らしをしている陸が「越場さん、うちに来ます?」と言い出した。

イラスト 寺田マユミ
イラスト 寺田マユミ

「うち?」
「ボクの借りてるマンション。部屋空いてますよ2LDKだから。今まで息子と狭いマンションで暮らしていたんだから、今度は義弟と暮らすのも全然悪くないんじゃないですか」
 歩いて十分。早足で五分。本当に走れば三分で着く、カップ麺がちょうど出来上がる距離。
「それなら、毎日この家で朝ご飯も晩ご飯も一緒に食べることができるし、ずっとここで過ごして寝るときだけ帰ることもできる。ボクがそうしてるみたいにね」
「一緒に出勤も帰宅もできるね」
 らんもちょっと嬉しそうに言う。
「それは、とてもありがたい提案だが、りくくんはいいのかい本当に」
「全然。ボクは他人が自分のスペースに入ってくるのはちょっとってタイプなんですけど、家族なら全然平気で、小さいときからずっと知ってる越場こしばさんは、ボクの中ではもう親戚みたいな感覚だし、実際に本当に家族になるんだから」
「それがいいんじゃないか」
 お父さん。お母さんも頷いている。
すずたちも、それに蘭だって何も急いでいないんだ。それぞれがそれぞれに、鈴はやよいと一緒に越場くんと、蘭はゆうちゃんと生きると決めた。ここにそうできる場所があるんだ」
「そうよ」
 越場さんと顔を見合わせる。スープの冷めない距離で過ごす。
「いいかな」
「いいと思います」
 また状況が変わったのなら、そのときに考えればいいだけのこと。
「けっていした?」
 ずっと大人しく皆の話を聞いていた優ちゃんが、笑顔で言って、皆が笑った。
「そうだね。決定したね」
 何ひとつ、無理することはない。あるがままで、いいんだ。

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