星のスパイス【2】

プディングと小公女たち

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前回のあらすじ

小児医療センターに病院事務として勤務する和佳子は、まじめな態度が子供に怖がられてしまうことが悩み。ある日、入院中の少女との会話がきっかけで手にした本に、金紙の星がはさまれているのをみつけた。

イラスト/miii
イラスト/miii

    *

 “ホテルのはな”は、駅前にある小さなビジネスホテルだ。観光地でも都会でもない市内には、ホテルというものが非常に少ないので、市民に名前は知られている。しかし、市民はホテルを利用しないので、名前だけしか知らない人がほとんどだろう。県内にある大学を出て、病院へ就職して以来、この市で生活している和佳子も、そんなひとりだった。
 プリン色の外観には、今どきのホテルにはないのんびりした雰囲気が漂っている。入り口は少し奥まっていて、通りすがりに中の様子をうかがうことは難しい。辺りもすっかり暗くなった時間に、和佳子はホテルの入り口へ歩み寄る。アクリルの透明なドアに、“ホテルのはな”と白い文字が視界をさえぎるように張り付いているが、自動ドアではなく、円盤みたいな取っ手がついていて、「押す」と日本語で書かれていた。
 中へ入ると、狭いカウンターが目につく。その奥にはモスグリーンのカーテンが掛かっているが、人がいない。呼び出しのベルがあるものの、客でもないのに呼び出すのもどうだろうかと考えていると、背後から声がかかった。
「こんばんは。ご宿泊ですか?」
 驚いて振り返ると、三十歳くらいの女性が、やわらかい笑顔をこちらに向けていた。こういう笑顔ができれば、きっと子供たちに好かれるのだろう。さすがに接客業の人は違うと感心しながら、和佳子は急いで首を横に振る。
「いえ、ちょっとお聞きしたいことがありまして。お忙しいところすみません」
 笑顔につられたものの、たぶん微妙に引きつった顔になりながら、和佳子はカバンから本を取り出した。
「あのう、この本の持ち主をさがしているんですが、中にこちらの便せんが入っていたので、何かご存じないかと思いまして」
 表紙を見て、はっとしたように彼女は声を上げる。
「これに、うちの便せんが? もしかして、お菓子の作り方が書いてなかったですか?」
 驚いて、和佳子は大きく頷いた。
「はい、たぶんお菓子だろうレシピが」
「それ、きっとメアリさんの本です。『風にのってきたメアリー・ポピンズ』かあ。やっぱりイギリスの児童書なんだ。あ、本の見返しにMの文字があれば間違いないです」
 彼女が言ったように、手書きのMというしるしはすぐに見つかった。
「どこで見つけたんですか? すみません、立ち話も何ですから、こちらへどうぞ」
 この本か、メアリさんにか、興味津々らしい彼女は、いそいそと和佳子を招く。ロビーから続く、テーブルがいくつか並んだ部屋だ。ラウンジ兼レストランだろうか。夜はやっていないのか、人はいなくて暗かったが、彼女が明かりを点してくれた。
「わたし、ここの娘で、従業員ではないんですが裏の自宅に住んでいるので、たまに手伝ってます。野花のはなつぐみと言います」