■1-1 ひいばあちゃんの訃報
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前回のあらすじ
ハルさんは、この町の霊媒師だ。町のあちこちにいる霊たちを呼び起こし、対話し、その魂を慰めている……らしいのだが、バイトで手伝っている俺にはその霊が一切合切見えない。
■1-1 ひいばあちゃんの訃報
大学に入った年の春、ひいばあちゃんの訃報が届いた。
寒くも暑くもないゆるやかな陽気が、1週間くらいずるずると続いている、気持ちのいい4月の夜だった。リビングのソファで大学の学務システムにアクセスして、一学期の履修登録をしていた時だった。
「豊。千代子ばあちゃんが亡くなったって」
と、背後から母さんが声をかけてきた。俺はブラウザの「水曜2限・数学B(線形代数)」と書かれた画面を見たまま、
「あー、そうなの」
とつぶやいた。
いくらなんでも親族が死んでの第一声が「あー、そうなの」はひどい。今から考えるとそう思うし、あの時ちゃんと「ええっ」とショックを受けて、手に持ったグラスを落として割ったりしておけば、怪しい霊媒師のバイトなんてやることにはならなかったはずだ。そういう分岐点の「あー、そうなの」だった。
だがその時の俺はそんなことを知るはずもなく、
「じゃ、葬式やるの?」
と言って、学務システムの「履修登録する」をクリックしていた。
「当たり前でしょ。あんた、ひいばあちゃんを何だと思ってるの」
母さんは少し怒ったように答えた。
人が死んだら葬式をやる。それは当たり前なんだけど、その時の俺はごく自然に、あのひいばあちゃんに「葬式」なんてものは似合わないんじゃないか、と思ったのだ。