「そろそろ率直に聞きたいのですが」
 陶器に盛られたバニラアイスを食べ終え、俺はそう切り出した。座席の隣には、役目を終えたエアバッグの残骸が置かれている。「後藤ごとう三郎さぶろうさん」をハワイに送り出した我々は、いつもどおり喫茶モダンに戻ってきていた。
「なあに? 豊くん」
 ハルさんは手にしたカップをそっとソーサーに置いた。相変わらず客の見当たらない店の隅のほうで、真夏なのに黒紋付きを着込んで、平然とホットコーヒーを飲んでいる。
「俺はあまり他人への配慮というものができないので、こういうことを聞くのは失礼かもしれませんし、もしご気分を害されたら、そのように言ってほしいのですが」
「前置きが長いわねえ」
「ハルさんは、幽霊の皆さんに話しかけることで、何かを調べているのですか?」
 まっすぐに相手の目を見て俺が言い終えると、ハルさんは置かれたカップをふたたび手にとった。時間をかけてひとくち飲み込むと、またカップをソーサーに置いた。一連の動作がひどく緩慢に感じられた。死ぬ前の瞬間に周りがスローに見えるという話を、なぜかその時にふと思い出した。
「一応バイトの身として、この仕事がどういうシステムになっているのか、把握しておきたいのですが」
「そうねえ」
 と言って、ハルさんは息をふうと吐いた。どこにそんな息が入っていたのだろう、と思うくらい長い時間をかけて吐きだした。
「私も、純粋な善意でこの仕事をしているわけでもないのよ。そうだったら良かったんだけどね、長く続けていくためには、どうしてもそういうことが必要になっちゃうから」
「なるほど」
 何かうまい具合にはぐらかされるのではないか、と思っていたので、あっさりと認められたことに逆に面食らった。
「がっかりしたかしら?」
「いえ、それについては全然」
 そもそも存在しない幽霊に対して、動機に純粋も不純もあったものじゃないだろう、と俺は思う。
 幽霊を信じない俺からすれば、この人の行動はなにもかも全面的に間違っている。そうとしか思えない。ただ、俺のほうが何かを間違えていることは明らかだったので、俺から見て間違っているこの人は、何かしらの真実を突いているのかもしれない。マイナスかけるマイナスがプラスになるような意味で。
「それよりも、調べている具体的な内容を知りたいのですが」

(つづく)