■3-11 噂を発生せしめた何かを探す
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前回のあらすじ
「谷原さんが、単に成績が1番なだけの人ではない、というのは理解できました。ありがとうございます」俺は小さく頷いて席を立ち、レジで一番安いコーヒーを注文して、それを持って家に帰った。

■3-11 噂を発生せしめた何かを探す
少しずつピースが集まっている気はした。
いや、この言い方は正確でない。そもそもピースは散らばっていないのだ。
ハルさんに「雇い主」がいる。その人物は相当な金を持っている。その人物は何かを探しており、そのためにハルさんの力を利用している。
そして、前回の件でわかったこと。ハルさんの目的は、あくまで町の中で完結している、ということだ。慰霊対象となる人間が数十年の長期間にわたり、話のスケールもさまざまであるのに、ハルさんが町の外に行くことはまったくない。
この町に何かがあるのだ。それも、ひとつの一族を何代にも渡って動かすような何かが。
そこまで考えた時に、俺の中に自然に「埋蔵金」という言葉が浮かんできた。
あの埋蔵金の話に、なにかしら具体的な真実が含まれていた、ということなのだろうか?
もちろん、小学生時代の俺たちが探していたような、大判小判がぎっしり入った漆塗りの箱がある、という話ではない。ハルさんが探しているのは、もっと概念的で抽象的な何かだ。だが、俺はその「何か」を暫定的に「埋蔵金」と呼ぶことにする。少年期の頭にずっと染み付いたせいで、言葉としてしっくり来るからだ。
ハルさんの目的は、埋蔵金を見つけることなのだ。
こんな馬鹿らしいこと(そう、俺は今でもハルさんの慰霊を「馬鹿らしいこと」と思っているのだ。それだけは明言しなければならない)にこれほどの金と時間を使っているとすれば、それは「埋蔵金」と呼ぶレベルの何かでなければならない。
「しばらく見ない間に、面白いことになったじゃないか」
文学部講師の高野さんはずいぶんな寒がりらしく、10月なのに欧米のクリスマスみたいなニットセーターを着ていた。俺は押し入れから出したばかりの長袖シャツが思いのほか暑いので、肘のあたりまで袖をまくっている。それ以外にこの部屋に季節感らしきものは見当たらない。本の山は本物の山と違って、季節ごとの彩りというのはないらしい。
「男子三日会わざれば刮目して見よ、というやつだな。この場合、刮目してるのは君のほうだが」
「どちらかというと、子供の頃に戻ったという感じですけどね」
「しかし、埋蔵金が本当にあるとはね。はからずも私の話は、核心を突いていたわけか」
「いえ、本当に埋蔵金があるってわけではないですが」
と俺は釘を刺した。
「ただ、俺たちが『埋蔵金』と呼んでいたものと、その霊媒師が探しているものが、同じものに由来する可能性がある、ということです。あの小さな町に、そんな価値のあるものがゴロゴロしてるとは思えないので」
「私も子供のころから住んでるけど、そんな財宝の話は聞いたことがないな」
高野さんは手元にある資料をぱらぱらとめくりながら話を進めた。本を読みながら会話ができるのか、手癖でページをめくっているのか、目の動きを見てもよくわからない。
「いや、男子が昼休みにそんな話をしていたかな? てっきりテレビか何かの話だと思っていたけど」
「でしょうね。俺のクラスでも、誰でも知ってる話って感じじゃなかったです」
俺と西田が仲間を増やさなかったのも、分け前が減るとか秘密が漏れるとかいう以前に、そもそも埋蔵金なんてものを真に受ける人間が少なかったからだ。というか、俺だってどれくらい本気で信じていたかあまり覚えていない。ちょっと本格派の「ごっこ遊び」だったような気もする。
「で、君はどうするつもりなんだ」
高野さんは読んでいた資料をぱたりと閉じて、机に置いて言った。