■3-12 やはりピースは散らばっていなかった

幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする

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前回のあらすじ

少しずつピースが集まっている、いや、そもそもピースは散らばっていないのだ。ハルさんの目的は、埋蔵金を見つけることなのだ。そもそも俺自身は、いつ埋蔵金の話を知ったのだろう?

イラスト/土岐蔦子
イラスト/土岐蔦子

■3-12 やはりピースは散らばっていなかった

 俺はいつ、どこで、埋蔵金の話を知ったのか。
 西田にしだから聞いたわけではない。埋蔵金を探そうと言ったのは西田だが、その時点で俺はその存在を知っていたはずだ。少なくとも、西田が俺の知らないことを知っていたら、それは俺の印象にかなり濃く残っているはずだ。
 だとすれば、家族の誰か、である。俺自身が覚えていないくらい小さい頃に、俺に何かを教える相手がいるとすれば、それは家族しか考えられない。
 母さんは俺が埋蔵金を探していると聞いて「その話、まだあったの」と意外そうにしていた。だから母さんではない。父さんはそもそも町の生まれではない。つまり消去法で、富子とみこばあちゃんか、千代子ちよこひいばあちゃんの2人となる。
 ひいばあちゃんから聞いた、というのがもっともらしい。埋蔵金の時期を考えると、ひいばあちゃんは埋蔵金のことをリアルタイムで知っていた可能性がある。そしてひいばあちゃんが俺にした数少ない話が、自分の昔の体験談だった。台風で川から階段状の水が流れてきた話とか、山でツキノワグマを見た話とか。
 そういうものの一環として、埋蔵金の話を聞いていた可能性はある。

 玄関チャイムを鳴らし、1分待ったが反応はなかった。塀沿いに歩いて庭のほうに回ると、富子ばあちゃんは居間でテレビドラマを見ていた。知らない俳優の声が庭まで響いていた。見た目は健康そのもののばあちゃんも、少しずつ耳が遠くなっているようだった。
「ばあちゃん、ばあちゃん」
 ガラス戸を叩きながら言うと、ばあちゃんは手にした柿を皿に置いて、
「あら、ゆう君。どうしたの?」
 と言って戸を開けた。俺のほうからばあちゃんの家に行くのは珍しいので、ばあちゃんは不思議そうな顔をした。卓袱ちゃぶ台に置かれた柿をひとつ貰いながら、ざっくりと事情を話した。俺が子供のころ、友達と一緒に埋蔵金を探していたけれど、それについて何か知らないか、ひいばあちゃんは何か知らなかったか、といったことだ。
「ああ、埋蔵金ね」
 と、ばあちゃんは回覧板の話でもするように答えた。
…え、知ってるの?」

今野こんのさんの財産のことでしょう? お父さんがよく話してたわよ。子供たちの間で、埋蔵金だ何だって噂になって困ってる、って」
 お父さん、というのは、ずっと前に亡くなったきよしひいじいちゃんのことだ。
「え? ひいじいちゃんが、埋蔵金に関係していたの?」
「あら、そうだったと思うけど。だからゆう君も知ってるんでしょ?」
 いや、確かに知っていたし、その経緯もこの家だと思っていたけれど、埋蔵金自体がそんなにも身内の話だとは想像していなかったのだ。
 ただ、考えてみれば納得できる話だ。ひいばあちゃん夫妻は地元の名士だったのだ。この町で相当な金額の動いた話であれば、関わっていても何も不思議ではない。
「何かもっと、具体的なことは覚えてないの? それが隠してある場所とか」
「そうねえ。お母さんに聞けば、わかると思うけど」
 と言って、ばあちゃんはきょろきょろと周囲を見た。仏間に視線をやって、ああ、と小さく息を漏らした。ひいばあちゃんが死んでいることを忘れていた、というような顔をした。