SF作家の地球旅行記

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 考えてみると彼女たちの言う「霊媒」は、本質的に「誰かになりきる」ということなので、対象が死者である必要はまったくない。
 ただ、生きている人間を名乗るほうが社会的な問題は起きやすいだろう。本人の了承が必要というルールが彼女たちの間にできるのもうなずける話だ。
「いや、役に立てたのであれば何よりだけど」
 と俺は答えた。実際にそう思っていた。要は、サクラが自分の実力を押し上げるのに俺のイメージを使用したという話なのだから、俺がとやかく言う道理はなかった。
「体調を崩すっていうのはつまり、生きている人間の霊を使うと、その人が体調を崩す、ってこと?」
「そういうことが稀にある、と母から聞いています。鵜沼うぬま家にはそうしたものは伝わっていないのですが、生者の霊を自身に宿すというのは、古くは他人を呪うのに使われていた術ですから」
 なるほど、確かに月曜の授業中の眠気は、突然呪いでもかけられたかのような唐突さではあった。あの時に俺の霊(みたいなもの)がサクラのほうに行っていたとすれば、あの眠気にも自然に説明がつく。
 ただ、そういうのは結局のところ、出来事に理由を後付けしているだけなのだ。火曜の昼間にはなぜか突然スマホの電池残量が6%になっていたが、もしサクラが「火曜」と言っていれば、俺はそれを呪いだと解釈していただろう。
「ところで、話のついでに聞きたいことがあるんだけど」
 と、俺はいささか唐突に話題を切り替えた。
「俺はいま、ハルさんのところのバイトとは別に、ちょっとした探しものをしているんだけど、えーと、それがハルさんの仕事に、かなり深刻な影響を及ぼすかもしれない。そういうことを、してもいいと思う?」
 質問が下手すぎる、と急に自分を殴りたくなった。
「ごめん、言ってることわかる?」
「いえ、わかりません」
 とサクラははっきりと答えた。謝罪のターンが終わったせいで、いつもの冷静な態度が戻ってきたようだった。
「要するに、ハルさんが今やってる仕事を、俺が否定するかもしれない、ということ。前にも言ったけど、俺は幽霊というものを信じていないし、ハルさんの…いや、鵜沼モモコさんの霊媒のやり方は、道義的にも社会的にも不健全なものだと思っている。だけど、俺がそうしたものを否定することで、君の家族に迷惑をかけるかもしれない、ということ」
「なるほど」
 それからしばらく沈黙が続いた。さすがに言い方が悪い気がしたが、こればかりは結局自分の考えを正直に言うこと以外の方法が思いつかなかった。
 しかし、サクラの返事は意外なものだった。沈黙を破って聞こえてきたのは、
「私、役者になりたいんですよ」
 という声だった。
…?」
「谷原さんが前に聞いていたでしょう、私が四代目になるのか、と」
「ああ、聞いたけど」
「なりません。たしかにハルは偉大な霊媒師ですし、それ以前の先祖から受け継いでいる霊媒の術を無下にしようとは思いません。ただ私は、鵜沼ハルというひとりの霊の媒体であり続けるより、もっといろいろな人になってみたいんです。高校を卒業するまでに、母にそう言うつもりです」
 なるほど、と俺は思った。彼女たちの技術は誰かになりきる技術なのだ。それを有意義に使おうと思ったら、役者というのはきわめて適切な解に思えた。
「ですので、谷原さんが霊媒師を否定しようとしていることは、私はそれでいいと思っています。ただ」
 それからまたしばらくの沈黙が続いた。
「ただ、ひとつだけ理解しておいてください。私が鵜沼ハルの霊を継がないということは、鵜沼ハルはそこで死ぬ、、、ということなんです。あなたも知っている一人の人物を、私が自分の夢を叶えるために、この世界から永遠に消してしまうんです」
…」
「私は、私の選択次第で助けられる人を、みすみす死なせることになるんです」

(つづく)
※次回更新は、11月22日(水)の予定です。