■4-2 記憶は関係の中に蓄積されていく

幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする

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前回のあらすじ

「なるほど、わかったぞ。そのサクラという女子高生に好かれたくて、埋蔵金を探したい、ということだな?」「…いや、だいぶズレてるが」「オーケイ。いいぞ。そういう系の話なら俺は協力を惜しまない」

イラスト/土岐蔦子
イラスト/土岐蔦子

■4-2 記憶は関係の中に蓄積されていく

「喫茶モダン」を出た俺と西田にしだは、そのまま道をひたすら歩いた。
 具体的な計画があるわけではない。とにかく町を歩き回ることが埋蔵金探しである、という基本的な思考が、いまだに俺たちの間には共有されていた。
 歩きながら西田は母親に「今日遅くなりそう」とLINEを送っており、それについては「そうなの。ゆたかくんによろしく」という返事がきていた。遅くなるのかどうかは、俺にもよくわからなかった。
 11月の受験生がどのくらい忙しいのか。少なくとも世間的には「非常に忙しい」の部類に属すべき存在のはずだ。大学1年生の、つまり「かなり暇そう」に属する俺とのんびり歩いていていいのか、という疑問があったが、西田はそれについては何も言わなかった。単純に家にいない理由が欲しいのかもしれなかった。
 空はきれいな秋晴れだった。遠くに見える山のいちばん上のほうが、わずかに黄色く色づいているのが見えた。
「天気いいなー」
 西田がつぶやいた瞬間、正面から猛烈な風が吹いて、手にした地図がぶわっと宙を舞った。俺はダッシュでそれを追いかけた。
「ちゃんと持て、せっかく見つけたんだぞ」
 俺は拾った地図を渡したが、西田はその「せっかく」ぶりがピンと来ていない顔をしていた。
「だからさあ、それ本当に俺が書いたのか? 豊が俺の字を真似たんじゃねーのか」
「なんで俺がそんなことをするんだよ」
「いや知らねえけど、お前って他人の字を真似るの上手いじゃん」
「やったことないだろ、そんなこと」
「は?」
「はってなんだよ」
「中3のあの社会の先生、名前なんつったっけ」
国分こくぶん先生」
「そうそう。あいつの字を真似て、クラス全員に偽のプリント配ったことあったじゃん」
「何だそれ?」
 と俺は首をかしげた。いまどきパソコンを使わず手書きでプリントを作る高齢教師がいたことは覚えているが、偽のプリントというのは全く記憶にない。
「いや、なんで忘れてんだよ。『日本国拳法は103条の奥義からできている』とか書いたろ。『身体の自由:重力を無視した超高速移動』とか。そのあと普通に見つかったけど、なんか先生にもウケてたし、なんか結果的に怒られなかったよな」
 そう言われるとそんな文を書いた気がするが、字を真似た、というくだりが全く記憶になかった。記憶にある国分先生の字は、書写の教科書みたいな端正な形をしている。速記性と可読性だけを追求した俺の字とはなにひとつ似ていないし、真似できるとも思えない。
「絶対お前の記憶違いだろ。この地図さえ覚えてないようなやつなんだから」
「いや、そのプリント俺が職員室のコピー機で刷ったんだぞ。部活の資料作るから貸してほしいって言って。豊の面白エピソードつったらそれだぞ。予備校の友達全員に話してるぞ」
「ひとの覚えてない話を勝手に…」と言いかけて、「いや、どんな流れで予備校で俺の話をするんだ?」
「いや普通に、俺の幼馴染に面白いやつがいる、みたいな話で」
「面白いか? 俺が」
「面白いだろ」
 そうした話をしている間に、俺たちは川のそばに来ていた。ハルさんといた時はタクシーを使った距離を、なんの気もない会話であっという間に歩き終えていた。
「このへんの形も、なんか、ずいぶん変わったよなぁ」
 と西田がつぶやいた。故郷をしのぶ老人みたいな言い方だった。ついさっき俺に「ジジイかよ」と言ってきたが、お前もそうだろうとこっそり思った。
「形、ってなんだよ」
「川の形」
「堤防の形が? 塗り直しただけじゃないか?」
 と俺は周囲を見回した。言われてみると、中学に通学していた頃よりもずいぶん白くなっている気はしたが、考えてみると川の堤防に塗装をする理由がわからない。堤防自体を作り直したと考えるほうが自然だ。
「形自体かなり変わったろ。高校んとき、何度か工事してたし」
「そうなのか? 高校はこっちの方行かなかったからな」
「あーそうか。俺、卓球部で毎日このへん走ってたから、かなり細かい形まで覚えてんだわ」
「お前が速攻で辞めた卓球部な」
「え? いや、2年のはじめくらいまで続けたぞ?」
「何言ってんだ、お前は1年の6月に辞めたろ。『俺そんなに卓球好きじゃなかったわ』とか言って」
「いや、俺、その年の夏合宿も行ってたし」それから西田は少し黙って「あ、そうか、6月にザキ先…つまり2年の先輩たちと揉めて、1か月くらい練習サボったんだよ。そのせいだろ」
「え? お前、放課後俺の家に毎日スイッチ持って来てただろ」
「毎日は来てねえよ。せいぜい週1だろ」
「なんか体感的に毎日くらい来てた気がしたんだが」
「マジか、そんな邪魔だったか」
「いや邪魔じゃなかったけど」
「いや確かに、部活やってるのにすぐ家帰ったら母親がなんか言うから、お前んちとか結構行ったけどさ。つーか俺の1こ上がまじで最悪の世代でさ、卓球場の隅のほうに、床板が破れてこのくらいの穴が空いてたんだけど…」