Room101 & 721――そのたてがみがまぶしくて【3】
更新
前回のあらすじ
ゴンドラは運休で天気も最悪だけれど、こうして朝イチにトーイに会えただけで、今日という一日のもとを取った気になれる程度には、レオはトーイが好きだ。決して、叶うことがない恋だとしても。

*
「おー! レオ君! こっち!」
やっとパーク下のロッジまでたどり着いたレオを見つけた瑛仁が、メインキッカー下のハイクアップパークから、大声で叫びながら手を振ってくる。石打高原のパークは、ビッグキッカーやジブが並ぶメインパークの下に、ポコジャンと呼ばれる小さなキッカーや初心者向けのアイテムが並ぶ、ハイクアップパークも完備されている。初心者だけでなく、上級者も新しいトリックに取り組むにあたっては、皆ハイクアップパークで一本こなしては板を脱いで上り、また一本……といういわゆる「ハイク修行」をこなしている。
氷点下五度を下回る吹雪だというのに、トーイやレオと違って、瑛仁はバラクラバはおろかネックチューブすら着けていない。真っ赤なスノージャケットと、白いダボッとした太めのスノーパンツが、よく似合っている。厚手のビーニーからは、トレードマークの外ハネの金髪が覗いている。
「どもっす。おはよーございます」
と軽く片手を上げて返事をするけれど、小さい声で聞き取れるはずはなく、瑛仁はまだこちらを向いてにこやかに手を振っている。レオはふうっと息をついて、スキーを漕いで瑛仁のもとへ向かう。
「レオ君なら今日来ると思ってたわ!」
そう言って瑛仁はレオの肩を抱いた。正直、どう反応したらいいのかわからない。あの飲み会の夜以来、急に馴れ馴れしくなった瑛仁の態度の変化に、戸惑っているのも、もちろんある。酒宴を共にして仲良くなった男友達同士がこうして親しくなるのは普通のことなのだろうけれど、レオはどうしても身構えてしまう。いままでそうして来たように、表面上うまく取り繕いながら、仲良いふりをすればわけのないことだとわかっている。でも、瑛仁はとことんまっすぐかつ素直で、どことなく、嘘を許さない雰囲気がある。
あの飲み会の夜、瑛仁はゲイが苦手だと言った。大浴場で出くわした、同性愛者への生理的な嫌悪について語っていた。あれは、本気だったと思う。これから先、シーズンアウトまで石打高原のパークで過ごすにあたって、瑛仁に(そしてもちろんトーイに)性的指向がバレるようなことがあってはならない、と思うと、どうしてもレオは気楽に肩を組み合うことが憚られるのだった。
「……トーイさんも言ってたけど、マジで完全に貸し切りっすね」
かろうじて、ぎこちない笑顔を作って返事をする。瑛仁は、
「そーそー! しかもさっきディガー友達に聞いたら、風弱まったらメインキッカーのほうも開けてくれるってよ! トーイもあとで来るっぽいし、三人でセッションしよーぜ!」
俺、なんだかんだ丸一日の休み久しぶりだからなー、と瑛仁はうれしげだ。飲み会ではさんざん奈々子のことを訊いてきたから、てっきり今日も「奈々子さんは!?」と訊かれるかと思っていた。なのに、ここにいない奈々子について、瑛仁は言及するつもりはないらしい。奈々子に頼まれているので、レンタルコーナーにツインチップスキーがあるか訊ねたいのだけれど、楽しげに話しつづける瑛仁を遮ることができない。
「つーかさ、なんだかんだパークでレオ君会うの初めてじゃね!? トーイからレオ君めっちゃうまいって聞いてるからさ、なにげにすっげー楽しみなんだよね、俺」
瑛仁はずっとテンションが高い。そういえば、あの飲み会の日もそうだった。まるで沈黙を怖がっているかのように、ずっとしゃべり続けている。


