Lobby Lounge――白夜は更けてゆく【3】
更新
前回のあらすじ
「すっげえ努力してがんばってお前の夢、叶えたのに……!」ホストの仕事から足を洗おうとして雪山で遭難しかけた中学の同級生・ハヤト。その笑顔からは想像できないほど深刻な事情に憤るトーイだが……。

*――Lobby Lounge
「はじめまして! トーイの中学の同級生のハヤトっす! でもずっと白夜って名前でホストやってるんで、白夜のほうがしっくり来るかも……」
明るい声で自己紹介をするハヤトの横で、トーイは「ほんと、急なのに皆さんコイツのために集まってくださって、マジでありがとうございます」と頭を下げる。
「まさか、大谷さんまで来てくれるなんて……。なんか、申し訳ありません」
「全然大丈夫! ちょうど地下でスカイと一緒に瑛仁君と立ち話してるところだったから、気にしないで! 瑛仁君が『トーイがなんかトラブってるっぽい』とか言うからさあ。トーイ君にはいつもお世話になってるし、いても立ってもいられなくて来ちゃったの。それで、えっと……。白夜君って呼べばいいのかな? 大谷美菜です。こっちは息子のスカイね」
少し困ったように笑いつつ、ハヤトもとい白夜に挨拶をする美菜のかたわらで、スカイはぽかんと口を開けて白夜の顔を見上げている。
「いやー、源氏名で呼ばれるとなんか仕事モード入っちゃいますね! スカイ君、名前もそのロン毛も超かっけえじゃん! よろしくな!」
と、笑いながら大谷親子に挨拶をしている白夜を、トーイが「おい! マジでお前の将来かかってんだから、頼むから真面目にしてくれって。そもそもお前ホスト辞めるんだろ!」と叱りつける。
「白夜さんチャラいし、なんかトーイさんの友達っぽくないなー」
美菜の右隣のソファに細いからだを沈めたまま、レオが苦笑している。
「たしかになー。どっちかっつーと俺のダチにこーゆー系のヤツ多いわ!」
と言ってレオの隣に並んで座る瑛仁が笑う。
「レオも瑛仁も、急にごめんな! これでもコイツ、一応中学時代は吹奏楽部で真面目だったんだよ。んで、ガチで俺のマブだったんだわ……」
「冗談ですから気にしないでください! 白夜さんも、よろしくお願いします。レオです。トーイさんから、色々事情は伺いました。今日参加する皆さんにも伝えてあります。大変でしたよね……。あ、こっちはここのショップでバイトしている瑛仁さん。こう見えて、すごいやさしいいいひとです。俺も困っているときにトーイさんとか瑛仁さんに助けられて来たんで、白夜さんも気にしないでください! あ、そういえばトーイさん! いまはまだ会議中なんですけど、奈々子さんも終わり次第来てくれるみたいです!」
レオは白夜に自己紹介をしつつ、トーイに奈々子の参加を告げる。トーイは、「え、檜垣さんも? それはなんか心強い感じがするな。レオありがとな!」と礼を言う。そんなトーイの姿に接して、白夜も背筋を伸ばす。
「お飲み物おまたせしましたー」
〈シルバーウイング越後石打〉のロビーラウンジの喫茶スペースで働くリゾバの女の子が、白いエプロン姿でコーヒーやジュースを持って現れる。その子に対しても何やら声をかけそうな勢いの白夜を、トーイが手で制し黙らせ、「ありがとうございます!」と爽やかな笑顔で礼を言う。
「ごめんごめん、おまたせー!」
と言ってエレベーターホールから早足で奈々子が現れたのは、飲み物が着いたのとほぼ同時だった。白夜は、口をあんぐりと開けて、奈々子を見上げている。リモートとはいえ会議だったせいか、今日の奈々子は黒いパンツの上にめずらしく白いブラウスを着ていてパンプスまで履いており、いつも以上に美しさが際立っている。優雅に真向かいのソファに腰掛ける奈々子を見上げて、白夜はまだ口をあんぐりと開けている。ずっと夜の仕事をしているせいか日焼け知らずの白い頬が、ほんのり染まっているようにトーイには見えた。
「あの……、トーイの同級生のハヤトって言います! でも白夜って呼んでください!」
照れながら自己紹介する白夜に対して、奈々子はにこやかに「うん、よろしくねー。レオ君からなんとなく話は聞いてる。ホストなんだっけ」と問いかける。白夜は「あ、はい、そうっす」と言って頭を掻いている。
「みんな待たせちゃってごめんね! 年度末のせいかリモートで取締役会が一個入っちゃってさ。ちょうどいま社外取締役一社分辞めてきたところなの。で、これで全員そろったんだよね? いきなりで悪いけど、本題、始める感じでいい?」
奈々子は遅れて来たにもかかわらず、戦略コンサル時代に人種も背景も異なる人びとの会議を散々経験してきたせいか、手慣れた様子で場を仕切りはじめる。


